19. おせっかいと野次馬と保護者


「で、決めたのかよ?」

弁当を食べていると、唐突に巣山が聞いてきた。何を決めるのだろうか、と記憶を辿っていくと先週の部室での会話が思い出された。

「え、いや、ちょっと…」
「…無理強いするつもりはねえけど、」

巣山は語尾を濁らす。何となく巣山が言いたい事が伝わってきて、俺は分かってると曖昧に笑った。

それからお互いに声を発する事もなく、黙々と弁当を食べる。
巣山が応援してくれている事は知っているし、嬉しかった。でも、やっぱりまだ告白するのは怖くて、俺は一歩踏み出せないままでいた。臆病者だな、と自嘲する。


「栄口!」

思考に沈んでいると、不意に聞き覚えのある声が聞こえた。声のしたほうに視線をやると、教室のドアの所に七組の奴らがいた。

「栄口、遊びに来たよー!」

手を大きく振りながら俺の机に近づいてくる水谷。その後ろを花井は少し呆れて、阿部は心なしか楽しそうについて来る。俺は自分の顔がひきつるのを感じた。

「今日はミーティングの日だよ!」
「…はい、そうですね」
「告白するんでしょ?」

またその話か…。思わずため息が出る。
わくわくと目を輝かしている水谷にさあね、と言うと水谷は不満そうな声を上げた。

「花井たちは何で一組に来たの?」
「ん、ああ、水谷の奴が一組行こうって言い出してな」
「うん、栄口を応援しに来たんだ」

にかっ、と笑って水谷は弁当が入っているらしい袋を見せた。阿部なんかは俺の隣の席に座って弁当を開き始めている。こいつらはここで弁当を食べるらしい。花井は申し訳なさそうにしていたけれど。

「名字さんはいる?」
「ああ、ほら、あそこの席」
「一人でいる奴?」
「今日は斎藤が図書委員の仕事があるとか言ってたな」
「じゃあ、こっちに呼ぶか?」
「いいね、それ!巣山、名字さん呼んでよ」
「おう」

巣山と阿部と水谷の話を聞いていて冷や汗が出てきた。ちょっと止めてよ、と言う前に巣山が名字さんの名前を呼ぶ。彼女は巣山の声に気づくと、読んでいた本を閉じてやって来た。

「どうしたの?」
「たまには一緒にどうかなって。あ、こいつら野球部の」
「七組の水谷文貴っていうんだ。宜しく!」
「名字名前です。こちらこそ宜しくね、水谷くん」

名字さんは水谷ににこりと笑いかけて、それから他の二人のほうを向いた。花井も阿部も軽く自己紹介をする。二人にも宜しくと笑いかける彼女。座れば?と阿部は俺と阿部の間にそこら辺から引っ張ってきた椅子を置く。彼女は少し遠慮しながらもそこに座った。

「そういえば」

突然、阿部が思い出したように言った。
何事かと阿部の方を見ると、その顔にはにやりと何か企んでいるような笑みが浮かんでいた。ヤバイ、と俺の直感が訴える。

「栄口、名字サンに何か言いたい事あっただろ?」
「えっ?栄口くん、何?」
「ななな何でもないよ!」

横目で周りの奴らを見る。阿部と、さらに巣山までにやりと笑っていて、花井は苦笑していた。水谷なんかは頑張れー、とか言い出す。様々な反応だが、皆共通して、彼らの目は早く早くと急かしているようだった。
視線を名字さんに移すと、彼女は不思議そうに俺を見ていた。どうしたの、栄口くん。少し首を傾げて尋ねてくる。周りからの視線に急かされ、俺はおずおずと口を開いた。

「あ、あの、」
「うん?」
「き、今日、部活ミーティングだけなんだけど、一緒に帰らない…?」

ああ、どうにでもなれ…!心の中でそう思った。
初めて一緒に帰った(というか送っていった)のは彼女が熱を出した時。次は彼女が委員会の日で夜道は危ないという事で。しかし、今日、彼女は何の予定も入ってないはずだ。彼氏でもない奴が何でもない日に一緒に帰ろうと誘うとか、俺、変な奴に思われたに違いない。
ちらりと名字さんを見る。彼女はキョトンとしていたけれど、少ししてから、ふんわりと彼女特有の柔らかい笑みを浮かべた。
うん、いいよ。彼女の声が脳内に響く。…今、なんて言った?

「じゃあ、教室で待ってるね」
「え、本当にいいの…?」
「うん」

念を押す俺に彼女はこくりと頷く。良かったね!と叫ぶ水谷の声と、花井の水谷を叩く音が遠くの方で聞こえた。


090824


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