21. 微かなぎこちなさ


こうなる事は予想していた。はあ、とため息をついて目の前の集団を見やる。そんなに人の恋愛が気になるのか。ご丁寧に鞄を教室に置いてきてからやって来るし。
廊下に10人、しかも男ばかりが固まっているもんだから、端からみたら異様な光景だろう。現に登校してきた人たちは俺たちの横を通りすぎる際に不思議そうに見てくる。


「昨日はどうだったの?」

最初に声を発したのはやっぱり水谷だった。にこにこと笑顔で聞いてくる。

「しなかったよ」
「えーっ、何で!?」

淡々と答えてやる。すると水谷は腑に落ちないとでも言うような顔をする。他の奴らも同じような顔をして、騒ぎ出す。これも予想した通り。
でも、。俺が続けると、彼らはぴたりと止まった。視線が一気に俺の方に集まる。

「いつかは告白しようと思う。…今はちょっと無理だけどね、」
「栄口…」
「皆が言ってくれた通り、このままずっと逃げてたら一生後悔すると思うんだ。何もしないまま後悔したくない…、だから、俺、頑張るよ」

そう言い切って、にこりと笑う。そんな俺を見て彼らは納得したようで、俺に笑いかけたり抱きついたり突撃したりしてきた。頑張れー!俺も協力するから!彼らの言葉に胸が温かくなる。

「じゃあ、また部活でなっ!」

朝のHRが始まるまであと五分。皆それぞれのクラスに戻っていく。


「やっぱり告白できなかったんだな」

俺と巣山の二人になってから、巣山が口を開いた。

「やっぱりって何だよ」
「栄口の事だからな」
「酷いよ、それ。俺が度胸ないみたいじゃんか」
「実際そうじゃん。…でも、まあ、いつか告白するんだろ?」
「……うん」
「俺も野球部の奴らも協力する。また、告白しないとか言ったら許さねえからな」
「…ありがとう」

そろそろ俺らも戻ろうぜ。巣山がそう言い、俺たちは教室に戻る。ドアに手をかけたところでふと横を見ると、昇降口の方から名字さんが歩いてくるのが見えた。

「名字さん、おはよう」

挨拶をすると、彼女は俺の声にハッとしたようだった。下に向いていた視線を前に移す。

「おはよう」

にこりと笑いながら、彼女も挨拶をした。
――でも、少しだけ違和感。彼女が前を向いた時、その顔が一瞬強ばったような気がした。それに、いつもなら彼女はもっと早い時間に登校していたはずだ。

彼女は挨拶をした後、俺たちの横を通り過ぎて教室に入っていった。鞄を机の横にかけ、一限の授業の用意をする。
いつもと変わらない行動。だけど、何でだろう。彼女の背中はひどく寂しそうに見えた。


090825


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