24. 午後四時に
本日最後の授業が終わった。いよいよ明日は開会式。今日も遅くまで練習するんだろうなあ。
荷物もまとめ終わり、部活に行こうと教室を出る。少し歩いた所で誰かに呼ばれた気がして、振り返るとそこには名字さんがいた。
「栄口くん、あの、」
「ん、どうしたの?」
「今日一緒に帰ってもいいかな…?」
「えっ…、部活終わるの九時だよ?大丈夫?」
「うん、大丈夫」
突然の申し出に驚いた。名字さんを見ると、彼女は視線を下に固定しまま動かない。
「なら、いいんだけど…、どこで待ってるの?」
「教室とか…?」
「…もし名字さんがいいなら、ベンチで待ってるのは?」
校舎内で待ってもらっていると見回りの先生に何か言われるかもしれないし、それより俺が心配になるし…。だからすぐ目の届くベンチで待ってもらう事を提案してみた。
「え、いいの?」
「うん、監督には俺から言っとくから」
「…じゃあ、お願いします」
俺の提案に名字さんはこくりと頷く。じゃあ、行こっか。俺は名字さんの手を引いて歩き出した。
部室には向かわず、まずグラウンドに向かう。ベンチの所にいた監督に話をして了承してもらった。篠岡もいる事だし心細くなる事はないだろう。そう思い、俺は練習着に着替えるために部室へ向かった。
休憩時間。いつもなら野球部の奴らと一緒にいるけれど、今日はベンチの方へ向かう。名字さんは篠岡と無事打ち解ける事ができたみたいで、楽しそうに話をしていた。
「あ、栄口くん、お疲れ様」
俺の姿を見つけると、彼女はふんわりと笑った。とくん、まただ。顔が少しばかり赤い俺を見て、近くにいたモモカンはによによと笑う。
「名字さんは野球が好きなの?」
モモカンが名字さんに尋ねる。彼女は一瞬キョトンとしてから、また優しい笑みを浮かべて答える。
「栄口くんから色々話を聞いて、楽しそうだなって思ってました」
「あら、そうなの?」
ちらりと、何か面白そうに俺を見てくるモモカン。篠岡も何だか楽しそうだった。
「名前ちゃん、マネジ一緒にやらない?」
「マネジ?」
「うん、マネジってすごく楽しいんだよ!」
「あ、でも…、」
篠岡の誘いに名字さんは言葉を濁らした。申し訳なさそうに篠岡を見ながら続ける。
「家の事情で、ちょっと、無理かな…」
「そっか…、」
「あ、あのね、今日は大丈夫なの。だから、今日だけでも手伝わせてくれないかな?」
「…えっ、ほんと!?じゃあ、一緒におにぎり作ろうよ!」
いいですよね?、と嬉しそうに尋ねる篠岡にモモカンも頷く。篠岡の顔がぱあっと明るくなる。名字さんとよっぽど一緒にマネジをやりたかったみたいだ。
「休憩は終わり!さあ、練習再開するよ!」
パンッとモモカンが手を叩いて言う。篠岡と一緒に、おにぎりを作りに校舎に向かっていく名字さんの後ろ姿を見ながら、俺も練習を再開した。
090826
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