26. Yes or No?
開会式の間もその後の練習の時も、名字さんの事を思考の端に追いやり野球の事ばかり意識した。そうでもしないと自分が自分でなくなりそうだったし、周りにも迷惑かけてしまいそうだった。実際、まだ誰にも気づかれていない。
ありがとう。
名字さんの、告白した俺への返事。それは肯定を意味するのか、否定を意味するのか、見当がつかなかった。
不意に、彼女の寂しそうな表情が頭をよぎる。
(ねえ、君は何でそんな顔をするの?)
頭の中の彼女が寂しそうに笑った。
今日の練習はいつもより長く感じた。練習が終わり、ほっと息をつく。気が抜けた瞬間、名字さんの事がいくつも頭の中に浮かんできた。
彼女は今何をやっているのかな、何だか無性に彼女に会いたくなった。
「何ぼーっとしてんの?」
バシッと背中を叩かれる感覚。我に返って振り返ると泉が不思議そうな目で俺を見ていた。
「練習疲れた?」
「ううん、そういう訳じゃないんだけど、」
「…そっか。皆部室に行ってっから俺らも行こうぜ」
「…うん」
帰りの支度も終わり一番最後に部室を出る。夏と言っても、この時間になると流石に外は真っ暗だった。コンビニ行く人ー!、と田島が手を上げているのが遠くで見えた。
「俺、今日はパス」
そう言うと、前を歩いていた奴らは驚いた様子で振り返った。そんな彼らに俺も驚く。
「栄口、どっか具合悪いの?」
水谷が心配そうに聞いてくる。俺は首を横に振り、大丈夫だと笑いかけた。
「今日は用事があるんだ」
じゃあね、と俺は立ちすくむ奴らの横を通り過ぎ、自転車置き場に向かって歩き出した。そこに到着し自分の自転車にまたがってペダルを踏む。星の見える夜空の下、一人自転車を漕ぎ進める。
キキッとブレーキをかけて止まったそこは名字さんの家。彼女の家には明かりがついていない。
「もう、寝ちゃったのかな」
携帯のディスプレイで時刻を確認する。午後十時。寝ているのに起こすのも嫌だし、明日会えるのだから。少しもどかしさを感じながらも、自分にそう言い聞かせてまたペダルを踏んだ。
(もし、明日名字さんに会ったら、)
はっきりさせたかった。それが彼女を困らせても、どんな結果になっても。だって、俺はまだ納得できていない。
(君の気持ちを聞きたい)
090828
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