28. 直線でつなぐ


「先生っ!」

HRが終わり、俺は廊下に出ていった先生を呼び止めた。くるりと先生は振り返る。

「どうしたんだ?」
「あの、聞きたい事があるんですけど…、」
「あー、勉強の事なら後でしてくれるかい?」
「そうじゃなくて…!名字さん、今日はどうしたんですか?」

そう尋ねる俺を、先生は一瞬不思議そうに見る。すぐに何か思い出したように手を叩いた。

「そっか、昨日野球部は公欠だったね」

頬を掻きながら、先生は少しだけ顔をしかめて言った。


「名字は昨日転校したよ」


先生の言葉にガツンと頭を殴られた感覚がした。転校…?と思わず聞き返す。こくりと先生は頷いた。

「…ありがとうございました」

礼を言う事しかできず、先生にお辞儀をして踵を返した。
教室に戻ると巣山が慌てた様子で寄ってくる。巣山は心配そうな表情を浮かべていた。

「栄口、」
「…名字さん転校したって、」
「HR始まる前、クラスの奴に聞いた」
「そっか…」
「ああ、」
「……巣山、」
「どうした?」
「俺、学校サボる」

はあ?、と巣山は声を上げた。

「先生には言い訳しといて」
「ちょっ、何言ってんだっ!?」
「午後の部活はちゃんと出るから」

慌てる巣山に笑いかけて、俺は教室から飛び出した。


名字さんの家に向かって自転車を走らす。思えば、最近彼女が少し変だったのはこれが原因だったのかもしれない。
彼女の言葉。時折見せた寂しそうな表情。悲しそうに揺れた瞳。全部、繋がる。


『…ずっとこのままだったら、』
『何でもないよ』
『ありがとう』


『ばいばい、栄口くん』


最後に聞いた言葉は別れの言葉だったんだと今気づく。
このまま会えなくなるなんて嫌だ。俺、まだ名字さんから何も聞いていない…!

懸命に自転車を漕いで、やっとの事で到着する。もういないかもしれない、そんな考えに首を横に振って、彼女の家のチャイムを鳴らした。


――ガチャリ、と扉の開く音。

「さかえぐち、くん…?」


そこから顔を出したのは名字さんだった。俺の姿を見た途端に驚いた表情を浮かべた。
俺は名字さんに手を伸ばし、その体を抱きしめた。


090829


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