06. 自覚しました
あれ、田島の彼女だよ。
そう言われれば納得してしまう人も少なくないだろう。確かに名字さんと田島は同小で仲が良いし、端から見ればそう見えるかもしれない。…もしかしたら本当に付き合っているのかもしれないけれど。それくらい彼女と田島はお似合いだ。
あ、でも、名字さんってこの前まで彼氏いたよな…?じゃあ、実際はどうなんだ?
ああ、分からなくなってきた。
「うー…、」
「ん、栄口、どうしたの?」
「分かんないよ、もう」
「何が、だ?」
「頭いてー」
「大丈夫?」
ちゃんと言葉のキャッチボールをしてくれ、と巣山に言われ適当に頷く。たまたま一組に遊びに来ていた沖と西広には心配され、俺は彼らに大丈夫だと笑いかけた。
巣山たちには申し訳ないけれど、今はそれ所ではない。
名字さんと田島が付き合っているのか、否か。
その問いだけが頭の中でぐるぐると回っていた。
別に彼女と田島が付き合っていても何もないんだけど、と思うと昨日と同じように胸が痛んだ。…そもそも、気がつくと彼女の事ばかり考えているのは何でだろうか。
「…あ、」
ふと窓際の席を見ると、彼女がいるはずの席は空っぽだった。
いつの間にいなくなったのだろう。教室をキョロキョロと見渡したが、その人物を見つけられず首を傾げる。
不意に隣からため息が聞こえ、視線を移せば巣山が呆れたような表情をしていた。
「名字ならどっかいったぞ」
「…何で俺が名字さんを探してるって分かったの?」
「何でって、お前、名字の事好きだろ」
「え…!?」
巣山の言った言葉に俺は目を真ん丸にした。沖はえーっ!?と大声を出し、西広は若干驚いていた。
うまく理解できずに固まっている俺を見て、巣山はやっぱり無自覚だったか…、と呟いた。
「お前見てるとさ、バレバレなんだよ」
「え、俺、そんなに分かりやすい…?」
「ああ、名字と喋ってる時すごく嬉しそうだし」
「というか、栄口って好きな奴いたんだー。びっくりしたよね、西広」
「うん、栄口って恋愛とか興味なさそうだしね。野球一筋って感じ?」
「野球馬鹿は阿部だろ?」
西広の言葉に俺は苦笑しながらそう言った。俺だって可愛い子好きだし、今まで普通に恋をしていたし。…まあ、付き合ったことはないけれど…って何言ってんだ、俺。
「西広せんせー、栄口に何かアドバイスを!」
「んー、そういう系は分からないからなあ」
「はは…」
勢いよく手を挙げて訊ねた沖に西広は顎に手をあてうーん、と唸っていた。
俺の口からは乾いた笑い声しか出なかった。
その後も彼らは話を続けていたが、俺はそれを聞かずに一人思いを巡らしていた。
そっか、自分は名字さんが好きだったのか…。だから彼女の事ばかり考えていて、彼女が田島と仲良くしている時には何かもやもやしたり胸が痛んだりして。全て合点がいく。
…しかし、まあ、好きっていうことを自覚すると恥ずかしさが込み上げてくるもので。
「うわっ、栄口、顔真っ赤!」
「あ、ほんとだ」
「…何か恥ずかしい」
皆の視線に耐えられず顔を手で覆う。顔が熱い。
やっと自覚したか、と鼻で笑う巣山が何か恨めしかった。
090725
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