07. 放課後の教室


今日の授業も全て終わり、俺と巣山は部室へと急いでいた。用もなく遅刻したらモモカンに頭を握られるかもしれないからだ。或いはケツバット。俺はまだどっちもやられてはいないが、阿部や三橋を見てすごく痛そうだと思った。

「明日って何かあったっけ?」
「英語の小テストがあるぞ」
「え、まじ!?」

歩く速度はそのままで巣山に問いかける。巣山はすぐに答えてくれた。
英語の小テスト、その言葉が何か引っ掛かる。

「…あ」
「どうした?」
「英語の教科書教室に置いてきちゃったかも…。巣山、先行ってて。取りに行ってくるから」
「おう」

巣山の返事を聞いてから、俺は来た道を駆け足で戻った。


教室のドアを勢いよく開ける。教室には一人だけ、名字さんだ。
彼女は帰りの支度をしていた手を止めて俺のほうを見た。どう接したら分からなくなって俺は彼女に笑いかけた。すると彼女も微笑んでくれた。顔が熱い。
おっと、本来の目的を忘れてはいけない。そう思って自分の席に行き机の中を覗く。英語の教科書がない。不思議に思ってバッグを開けるとそこに教科書はちゃんとあった。なんだ、勘違いか。用が終わったらすぐに戻らなくては。モモカンが、こわい…。

名残惜しいが、名字さんに挨拶しようと振り向くと彼女は俺のすぐそばにいた。自然と目が合う。彼女の口が何か言いたそうにぱくぱくと動いた。

「どうしたの?」

そう訊ねると彼女は大きく肩を揺らして、若干上目遣いで俺を見てきた。
彼女の顔は心なしか赤いように思える。

「あ、あの、栄口くん」
「うん」
「…どうして、」

続くはずだった彼女の言葉は途切れた。
どうしたんだろうと思っていると、彼女の体が俺のほうに倒れてきて驚く。どう反応したらいいか分からずにあたふたしていたが、すぐに彼女の異変に気づいた。彼女は肩で息をしていて、時々咳き込んでいた。
額に手をあてて確認する。すごく、熱い。

「名字さん、保健室行こう!」

彼女の返事も待たずに、俺は彼女の手を取り走り出した。


090726


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