08. 熱と言葉と
「38.5℃、ね」
保健室の先生は苦笑しながらそう言った。
「早く家で休んだほうがいいわ」
「…はい、」
「車で家まで送っててあげてもいいけど…」
「いえ、家すぐそこなんで一人で帰れます」
「え、駄目だよ!」
いきなり大きな声を出したからか、先生も名字さんも驚いて俺のほうを見てきた。顔に熱が集まってくるような感じがした。いや、今はそんな事を気にしている暇はない。
「一人で帰るって、途中で倒れたらどうするの」
「まあ、そうね…」
「で、でも、平気…」
「平気、じゃないって。俺が名字さんの家まで送ってくよ」
その言葉に名字さんは目を真ん丸にした。先生はというと、ニヨニヨしながら俺の肩をぽんっと叩いた。
「それじゃあ、栄口くんに頼もうかな。名字さんもいいよね?」
「え、あ、あの」
「じゃあ、俺、教室から荷物持ってきます!」
保健室のドアをガラガラと開けて、教室まで駆け足で行く。
「あ、花井!」
「うお、栄口か。どうしたんだよ」
「俺、部活遅れて行くから、モモカンに言っといて!」
「え、ちょっ」
途中で、委員会が終わったらしい花井と会い伝言を頼んだ。あとで理由言うから、と付け足してその場を後にする。
教室に到着し、彼女と自分の荷物を抱えて保健室に戻る。
「お待たせ、じゃあ行こっか」
「う、うん…」
彼女と並んで歩き始める。
校門を抜けてからも俺たちの間には会話なく、二人黙ったまま歩いていた。こういう時って何を話したらいいんだろう。
「あの、ね、」
何か話題を必死に探していると彼女が話しかけてきた。
どうしたの?と先を促す。すると、彼女は心配するような目で見てきた。
「栄口くん、部活は…?」
「へ、部活?ああ、監督には言っておいたから大丈夫だよ」
直接は言ってないけれど。そう思いながらも、俺はにこりと笑いながら言った。彼女はそれを聞いてほっとしたようだった。俺の事まで気にかけてくれていたようで嬉しかった。
それから数分後、彼女は前方の家を指差し、あれが自分の家だと教えてくれた。
「ありがとう、送ってくれて」
「どう致しまして」
扉の前で名字さんはにこりと微笑みながら礼を言った。俺も何だか嬉しくて笑い返した。
「名字さんの両親にも体調悪いこと言うんだよ」
別れ際に何気なくそう言うと、名字さんは僅かに顔を歪めた、ように見えた。けれども次の瞬間には眉尻を下げて微笑んでいた。
「私、親いないから」
またね、と扉を開け家の中に入っていく姿を俺はただ呆然と見る。
俺の中で、さっき言った彼女の言葉が重く響いていた。
090731
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