振りほどいた手
この忍術学園に入って、初めて友達というものができた。村の中にいた人間は少なくとも十は離れていたから、歳が同じ子と毎日を過ごすのはとても新鮮で、楽しくて。
でも、それももう駄目なのかな。忍術学園に入る子たちは皆、忍者を目指している。自分はそういうわけではない。でも一緒に過ごしている。それって、彼らに対してとても迷惑なのではないか。
僕は、ここにいていいの…?
「あ、名字名前だ!」
その声で顔を上げる。その言葉を放ったのは同じい組の生徒たちだった。
「お前、なんでここにいるんだよ。早く故郷に帰れ!」
それもそうだ。名前はぼんやりとした頭で考えた。じい様に手紙で連絡して、何とか対処してもらおう。入学金とか授業費とか無駄になってしまい申し訳ないけれど。
最後に謝罪を、と名前は口を開いた。
「何やってんだよ!」
不意に聞こえた声。後ろを振り向くと、顔を真っ赤にした作兵衛がいた。
「何でいつも名前を悪く言うんだよ!名前が何かしたか?!」
「…作、」
「だいだい名前に帰る必要あるか?!名前だって学費払って学びに来てんだぞ!」
「作、」
「そんなに嫌ならよ、お前らが帰れ!」
「作兵衛っ!」
今まで聞いたことのないくらいの、名前の大声に辺りが静まる。今だ、とい組の生徒は逃げだした。作兵衛はその後ろ姿を恨めしそうに見やり、それから名前の方に向き直った。
「どうしたんだよ、いきなり」
「………」
「名前だって、あいつらに言われっぱなしなのは悔しいだろ?」
「………」
「…何か言えよ!」
先程とは打って変わって下を向いて黙っている名前に、作兵衛は叫んだ。ゆっくりと前を向くと、作兵衛の眉間にしわが寄っていて、苛々しているのが分かった。
作兵衛は短気だ。仲良くなってから分かったこと。
がさつなところもあるけれど、自分が困っている時はいつも助けてくれた。
だけど。
自分はいつもおどおどしていて、はっきりしない性格だ。作兵衛だってこんな奴お断りだろう。いつまでも作兵衛の優しさに甘えていてはいけないんだ。
今こそ、その手を離す時だ。
「もういいよ、」
「…名前?」
「もう、僕に関わらなくていいよ」
そう言って、体を反転させて駆け出す。後ろで名前を呼ぶ声がしたけれど、気付かない振りをした。
110221
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