03. 胸が高鳴りました
「おい、待ちやがれ!」
作兵衛に首根っこを掴まれ左門と三之助はぐえっ、と蛙が潰れたような声を出した。
「作兵衛、何をするんだ!」
「お前らすぐ迷子になるだろ!」
「俺は迷子になった事はないぞ」
「この無自覚がっ!」
文句を垂れる二人を怒鳴りながら腰にしっかりと縄を結ぶ。
全くこいつらは…。作兵衛は思わずため息を吐いた。
「あ、」
突然、三之助が声を出した。
「三之助、どうした?」
「あそこに名前先輩が」
「本当かっ!?」
三之助の言葉に左門は食い付いた。
三人そろって三之助の指した方を見ると、向こうから歩いてくる名前の姿が見えた。
「名前先輩―っ!」
左門がそう声をかけると、三人に気付いた名前はにこりと笑ってこちらに来た。
「先輩、こんにちは!」
「こんにちは、左門くん、と…」
首を傾げながら作兵衛と三之助を見る名前。
ああ、そうだった、と三之助は手を叩き一歩前に出た。
「俺は左門と同じ組の三之助っす。で、こっちが作兵衛」
「ありがとう、三之助くんと作兵衛くんね」
よろしくね、と名前は言って手を差し出した。作兵衛は少し照れながら、三之助はいつもと変わらず軽い感じで握手をする。
左門はそれが気に入らなかったのか、頬を膨らませて三人を見ていた。
「名前先輩っ!!」
左門は名前の手を取るとぎゅっと握った。
突然の行動に三人は目を丸くした。何やってんだ!と作兵衛は声を荒げ、三之助は目をぱちぱちとしているだけだった。
「どうしたの?」
名前は屈んで左門と目線を合わせた。左門は俯いている。手はぎゅうぎゅうと握ったまま、離さない。
暫くその状態のままだったが、その後、名前は左門の頭に握られていないほうの手を乗せ撫でた。左門の肩がびくりとはねる。
「左門くんの気が済むまでこうしてていいよ」
名前の言葉に左門が顔をあげると、にこりと笑っている名前がいた。
左門はその笑顔に胸が高鳴るのを感じながら、口を開く。
「…僕は、」
「うん」
「先輩が三之助や作兵衛と仲良くしているのを見ていて…、」
そこで左門は言葉を切り、ぱっと名前の手を離した。
「…や、やっぱり何でもないですっ!」
そう言うと同時に左門は名前たちがいるのとは逆の方向に駆け出した。
作兵衛がすかさず後を追う。残された二人はぽかんとしていたが、少しして聞こえてきた名前のクスクスという笑い声に、三之助は名前を見た。
「左門くんは、三之助くんや作兵衛くんが私と仲良くしているのがつまらなかったんだよ」
名前は苦笑しながら呟いた。三之助はその言葉に首を傾げる。
「違うと思いますけれど、」
「そう?」
「はい」
原因はその逆。多分、俺たちが先輩と仲良くしているのが気に入らなかったんだ。
三之助は一人納得すると、先にいった二人を追いかけるために駆け出した。
その後ろ姿を見送る名前は相変わらず苦笑していた。
100406
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