02. 条件反射
今日もその姿を見つけた。
「先輩」
声をかければ、名前は無表情のまま振り向いた。
「伊賀崎、何か用でも?」
「いえ、特にありませんが…」
そう言って孫兵は名前の顔色を窺った。何もないのに呼び止めたことに対して、特に不満はないようだった。
「先輩はどこへ向かう予定なんですか?」
「用具倉庫だよ」
「付いていっても…?」
「いいよ」
そうして二人は歩き出した。以前のように前後に並んで歩く。前を行く名前の揺れる髪。自分の髪とは違っていてきれいで、別にそれがうらやましいってわけではないのだけど。
「先輩、」
「何?」
「隣、いいですか?」
「どうぞ」
念願だった名前の隣。許可を貰えたことに顔を綻ばせながら、小走りで名前に近寄る。
「ありがとうございます」
「…?別に」
何故感謝されたのか分かっていない名前に、何でもないですよ、と笑いかける。
「…伊賀崎、」
「はい、何ですか?」
「何か嬉しいことでもあったのか?」
そう聞かれて首を傾げる。嬉しいことと言ったら名前の隣を歩けることだけれど。もしかして顔に出ていたとか…?ばれていたら嫌だなあ、と思いながら、孫兵は曖昧に言葉を濁す。
「ええ、まあ…」
「…そう」
それっきり黙り込んだ名前に孫兵は焦る。やはり正直に言ったほうが良かっただろうか。
改めて口を開こうとした時、名前が微笑んだ。
「伊賀崎、良かったな」
滅多に表情を変えない名前が笑った。それは孫兵にとって衝撃が大きすぎた。
顔に熱が集まっていく感覚がする。きっと自分の顔は真っ赤に違いない!
「っ先輩!」
「何?」
「僕、用事を思い出したので、」
「ん、ああ」
「失礼します…!」
顔を見られないように、早急にその場から立ち去る。顔に手を当ててみれば火照っていた。
(あんなの、反則だ!)
孫兵は心の中で叫んだ。
110311
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