04.


私がまずやるべきことは、名字の誤解を解くこと。そう思い彼女の部屋に向かう途中、忍装束ではない鮮やかな着物をまとった女の姿を見かけた。よく見ると、それは名字で、彼女の手には外出届が握られていた。そうして彼女は門から出ていった。
小松田さんの目を盗んで学園から出て彼女の後を追った。

名字が辿り着いた先は、高さがかなりあるだろう崖の上。彼女は一息吐いて、一歩踏み出した。
反射的に体が動く。

「待てよっ!」

ぱしっ、と腕を掴み引き寄せる。彼女は驚いた顔で振り返り、そして睨んできた。

「離して!」
「絶対離さない!」
「何で、邪魔しないでよ!」
「嫌だ!」

名字は私の手を振りほどこうとした。離すものか。私は手に力を込めた。

「もう、やめてよ…。鉢屋はエリ子さんを好いているんでしょ?!何で私に構うの?!」

悲痛な声が辺りに響く。
やはり彼女は誤解していた。それを解くために、私は彼女に告げる。

「何でって、お前を好いているからに決まっているだろう!兵助が言っていたことは嘘だ!私はずっと前からお前を好いていたんだからな!」

はっと息を呑む彼女。腕を引き、逃げ出さないよう彼女を抱きしめる。
彼女は自分では気付いていないかもしれないが、言葉遣いが以前のものに戻っている。これはもう兵助のことを好いていないということだ。私に軍配があがったようなものだ。
これで全てが丸く収まった、これで彼女は苦痛から解放されたと思っていた。

――グサリ、と嫌な音がした。

急にやって来た痛みに思わず膝をついてしまった。腕から彼女が抜け出す。その手にある苦無から滴る赤い液体。

「嘘ばっかり…。何が本当なのかわからない…!」
「…っおい!」
「もう何も信じられない!」

そのまま、彼女は自分の首に苦無を宛がい一線引いた。飛び散る赤色。彼女の体が後方へ傾く。

「名字っ!」

手を伸ばす。けれどもその手は届かず、彼女は闇の中へ飲まれていった。

「っくそ!」

伸ばした手を地面に叩きつけて、その場にうずくまる。
彼女はもういない、いなくなってしまった。
それなら、自分はどうすればいい?
ふと、懐に固い感触がした。取り出してみると、それは自分の苦無だった。

そうだ。どうすればいいかなんて、そんなの決まっている。

「待ってろよ、名字」

躊躇いもなく苦無を引いた。


110208


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