03.
それから、名字も兵助も私も、何も変わらないまま時間が過ぎていった。
けれども、五年の秋、事は起こった。
お手伝いさんとして学園にやって来たエリ子さんを、名字が悪く言ったらしい。
無論私は信じていない。名字はそんな奴ではない。
ぷかりと池に浮かぶ教科書。名字の周りに人が集まっていった。その中に兵助の姿を見つけたが、兵助は動こうとしない。
ならば。
名字が去った後、私は池に入り教科書を取る。周りからの、何やってるんだという視線は気にしない。兵助は何か言いたそうにしていたけれど。
一瞥して、名字の部屋へ向かった。
それから名字と私は急速に仲良くなった。度々作ってくる傷を治療するようにもなった。
たまに兵助を見つけては寂しそうな目をするけれど、私に依存してきているのを感じていたから構わなかった。このままいけば、私をちゃんと見てくれると思っていた。
あともう少し、というところで兵助が動いた。
名字に、私が嘘をついていると、エリ子さんを好いていると言ったらしい。
そんな訳ないのに、私は初めから名字が好きなのに!
「何てことしてくれたんだっ!」
兵助に掴みかかって床に押し倒して馬乗りになって。その顔を躊躇いもなく、何度も何度も殴った。
「名字に大嫌いと言われた。もう私を見てくれない」
兵助は何も言わず、ただ私を見ていた。
恋敵といっても、やはり友人である兵助を嫌いになれなくて、私は静かに部屋を出た。
110208
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