09.


私は自分本位な人間だ。この世の全ての人は、私の頭の中では自分と他人の2つのカテゴリーにしか分かれていない。だからくのたまの天女サマいじめには加わらないし、それによって天女サマがどうなろうと関係ない。自分さえ良ければそれで良い。つまりはそういうことである。
しかし、最近イレギュラーな存在が現れた。伊賀崎孫兵。自分というカテゴリーにも他人というカテゴリーにも入らない彼。

「いったい何者なんだろうね」
「はあ、」

目の前の穴に向かって話しかければ、聞こえてきたのはため息。

「それよりもここから出してください」
「穴の中の生活も悪くないと思うけれど」
「何言ってるんですか!」

怒ったような声が聞こえたが右から左へ聞き流す。ちなみに穴にはまっているのは三反田である。安定の不運委員会だ。

「ところで、実際どうなのさ」
「…孫兵のことですか?」
「そりゃあ、まあ」
「そうですね…」

そう言って三反田は考え込んでしまう。少しして、彼は口を開いた。

「自分にも他人にも分類されないんだったら、少なくとも先輩は孫兵に対して特別意識を持っているんじゃないですか?」
「特別?」
「はい。先輩にとって僕たちは他人なんですよね。でも、孫兵は他人じゃない。ほら、簡単じゃないですか」
「おお、なるほど」

三反田の言葉がすんなり頭の中に入ってきた。自分が伊賀崎を他人として見れないのは、伊賀崎が自分にとって特別だから。それは、つまり――


「名字先輩!」

突如聞こえた声に思考を中断させる。振り向けば、こちらに向かって走ってくる噂の人物。
私に一直線に向かってくると思っていたが、彼が向かった先は意外にも穴、というか三反田だった。

「数馬、名字先輩に馴れ馴れしくするな!」
「いきなり何っ!」
「先輩、さあ行きましょう」
「お、おお、」
「ちょ、ちょっと!」

せめて穴から出してくれてから行ってよ!三反田がそう叫んでいたが、それも右から左へと流す。誰か見つけてくれるよ、多分。
しばらく歩いて三反田のいる穴が見えなくなった頃、不意に、私の手を引いていた伊賀崎がくるりと振り返った。

「数馬とはどういう関係なんですか?」

伊賀崎は少し怒った顔で尋ねてきた。どういうって医務室で顔を合わせるくらいの仲なんだけどなあ。そう思いながら答える。

「ちょっと人生相談にのってもらっただけさ」
「僕に相談してくれれば良かったのに、」
「最近顔見せてくれなかったのに?」
「…そう、ですね」

そう言ったきり俯いてしまった伊賀崎に、私はある言葉を投げかけた。

「三反田がね、私にとって伊賀崎は特別だって言ってた」
「え、」
「私も伊賀崎のこと特別だと思ってるよ」
「…僕だって、先輩のこと特別に思ってますよ」

俯いているため顔は見えないけれど、彼の耳は真っ赤に染まっていて。それが何だか可愛くて、思わず笑ってしまった。


120422


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