コンコンコンと控えめなノックの音。比較的ゆっくり丁寧に3回扉を叩くのは、日中であれば、中島先生か堀先生であることが多い。しかし、日付も変わりそうな時間であれば、扉の向こうに立っているのはたった1人だ。
「萩原先生、こんばんは」
「……こんばんは」
驚かさないようにそっとドアを開ければ、そこには予想した通り萩原先生がいた。不安げな顔をして立っていた。もう何度目だろうと思いながら、先生を部屋に招き入れる。
転生した時、彼はひとりにしないでと言ったから、なるべくそれを守るようにしていた。室生先生か三好先生あたりと一緒にいられるような予定を組んだし、親しい人がいない時には助手をお願いするなりして近くにいるようにした。それがよかったのか、いつの間にか萩原先生に懐かれていた。
懐かれるのはいいのだ。嫌われるよりは好かれた方が仕事もやりやすい。ただ、彼が夜中に部屋を訪ねてきた時はさすがに驚いた。眠れないという彼の話を聞いているうちに寝てしまい、気付いたら萩原先生も隣ですやすやと眠っていた。
そういうことがあってから、萩原先生は寂しい夜に私の隣で眠りたがる。何をするでもなく、隣でじっとしていて、ふと思い出したようにぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。それに頷きながら、私はやっぱり途中で寝てしまう。
私が目を覚ます頃には萩原先生はいなくなっている。眠っている彼を見たのは最初に部屋を訪ねてきた日だけだ。怒らせてしまったのかと思ったが、次の日の態度は普通だし、また夜に部屋を訪ねてきたから、これで満足なのだろうと思っている。
「世界は冷たいね」
「そうですか?」
「夜になると、特にそう思う。孤独を感じるんだ。なんで自分はこんなに孤独なんだろう、って」
柔らかな髪をなでながら、孤独かぁと小さく呟く。多分、先生は私の返事にそれほど期待していない。
「孤独は嫌だけど、全部扉を閉めて、引きこもりたくなることもあるんだ。いつまでたっても、自分は自分のままで、孤独なんだって思う」
「先生はそのままでいいと思いますよ」
そう言ったら、萩原先生は珍しくびくりと反応して私の目を見つめてきた。
「本当?」
「本当です。先生の詩も好きだし、優しいところも、詩のことになるとすごく熱心なところもいいなぁと思いますよ」
なんとなく嬉しそうに聞いていた先生はおずおずと私の方に手を伸ばしてきた。何をする気だろうと思いながらも、動かずにいると、先生はそっと、本当にそうっと私の髪に触れた。さっき私がしたように撫でてくれる。
特に意味もなく撫でていたけど、撫でられるのって心地いいんだなぁとぼんやりしてきた頭で思った。子供の頃は大人から撫でてもらうこともあっただろうが、ある程度の年齢になればそういう機会はまずない。
「……いつもありがとう」
「いえ……いつでもどうぞ」
ああ、また眠ってしまうな。瞼が重くなり、全てが曖昧になっていく中で、萩原先生が小さく詩を口ずさむのが聞こえたような気がした。
170920
title by icy