突き詰めれば青春
※普段書いているものより現代的な世界観です
※三好さんの平服(散策でもらえる衣装)のネタバレを含みます



デートという名前をつけただけで、こんなに緊張するものだろうか。司書室で2人きりになることもあるし、2人で買い出しに出掛けたこともあるのに。
普段と違い、白いシャツにループタイ、ジーンズ姿の三好さんが隣を歩いている。服装のことをいえば私も普段なら着ないワンピース(動き回るし、本の整理で脚立に乗ることも多いから、仕事中はパンツスタイルがほとんど)で、図書館を出る前に「似合ってますね」「苗字さんこそ」などという、ぎこちない会話をすることになった。影から様子を見ていたらしい面々が吹き出していた。

きっかけは館長に最近休みを取ってないから、1日くらい休んだらどうだと提案されたことだった。初期文豪で助手をお願いすることの多いオダサク先生がその時一緒に司書室にいて、館長が部屋を出て行った後に、休みなら三好クンとデートやなと言い出した。
思い返してみれば、私と三好さんが想い合っているというのも、オダサク先生にカマをかけられて、思わず大きく反応してしまった結果、ほとんどの先生に知られることになったんだった。どうしても隠したいというわけではなかったし、他の先生達はからかい半分、温かく見守るの半分くらいの感じだから、別にいいんだけど。
デートですかぁ……まあ、三好さんの都合がよければ……と曖昧なことを言ったら、オダサク先生は三好さんにも私が休みをもらったから出掛けたらどうだというようなことを言ったらしく、三好さんの方から誘われた。

しばらく並んで歩いているが、妙な距離感と緊張感はなかなかなくならない。

「行きたい場所とかないッスか?」
「特に思い付かなくて」
「そうッスか……」

ふわりと甘い匂いがしてそちらに目を向けると、クレープの移動販売車があった。学生時代はよく食べたけれど、そういえば最近食べていない。そもそも買い出しに出掛けることはあっても寄り道はしなかったから、クレープが売られているのを見るのも久しぶりな気がした。

「クレープ食べてもいいですか?」
「クレープ?あれッスか?」
「そうです。食べたことないですか?甘くないのもあると思うので……あっ、ツナサラダとかなら七味をかけてもいけるかも」
「いや、俺も辛くない物も食べるんスよ」

何にでも七味をかけている様子が印象的すぎて、七味をかけられない物は好きじゃないのかと思った。
よく食べていたいちごカスタード&ホイップを注文する。三好さんはツナサラダを頼んでいた。やっぱり甘いのは頼まないんじゃないかと少し笑ってしまう。出掛ける時にも七味を持ち歩いているらしく、ポケットから取り出した七味をかけていた。

「やっぱり七味かけるんじゃないですか」
「苗字さんが勧めてくれたからッスよ。あ、これ美味いッス」

そんなに七味をかけて、元の味は残っているのか疑問だけど、気に入ってくれたならよかった。私もクレープをかじる。いちごの甘酸っぱさと二種類のクリームの甘さが絶妙だった。

「美味しい!それにこうやって外で遊ぶの、久しぶりです」
「まだ若いんスから、もっと休みもらって出掛けたらいいのに」

生前の記憶があるから、自然に若いと口に出しているんだろうけど、見た目だけなら私より年下の三好さんに言われると変な気分だ。見た目なら三好さんも充分若いのにと言ったら、苦笑された。

「出掛けるのもいいかもしれないけど、先生達の話を聞いている時間の方がよっぽど貴重な気がするんです。私の知らないことをたくさん知ってますから。……三好さん?」

少し不満そうな顔になったように感じて呼びかけると、彼は残っていたクレープを食べ切った。やっぱり機嫌が悪くなった気がする。

「わかるし、いいんスけど……あんまり2人きりにはならないでもらいたいッス。特にオダサクさんとか」

確かにオダサク先生は助手だから確かに司書室で2人になることが多いけど。これは……自惚れかもしれないけど……嫉妬というやつだろうか。

「あの、妬いてます?」
「……悪いッスか?大人気ないから言いたくなかったけど、気になるんスよ」

大人気ないと言われてまた笑ってしまうと、三好さんは更に不機嫌になってこんな外見ッスけどと言った。

「じゃあ、なるべく談話室とか、人が多いところで話すことにしますね」

私も残りのクレープを食べ切って、包み紙をゴミ箱に捨てる。そのまま三好さんの手を取った。2人だけで自由に出掛けられる機会なんてそんなにないんだから、迷っていたらもったいない。驚いた様子の三好さんにデートですからと言ったら、そうッスねと頷かれた。

「三好さんの年齢は置いといて、傍から見れば2人とも若いんですから、今日は目一杯遊びましょう!」

デートだからと考えすぎていたけど、楽しめそうな場所に行けばいい。映画館でも美術館でも水族館でもプラネタリウムでも、どこに行っても三好さんとなら楽しめるはず。
手を繋いだまま歩き出す。もう距離も緊張感もなかった。今日は1日休み、私達のデートはまだまだ始まったばかりだ。

171127
title by kakaria

壱万打企画リクエストより
匿名さま / 三好達治 デートする話



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