終わりの予感に怯えていた


小さな村で育った少女の話だった。単調な日常を少女の目線で追う。そこに旅人がやって来て、少女は恋に落ちる。親や親戚の反対を押し切って、少女は村を飛び出すことを決意する。旅人と共に村を出て行く日、少女は何度も来た丘の上から村を見下ろし、きっと自分はここに戻って来ることはないのだろうと涙を流す。そして、旅人に促されて歩き出す。

「今日は付き合ってもらえて助かりました」

普段の動きやすさ重視の服とは違い、少しよそ行きの格好をした名前は笑顔でお礼を言った。映画に行きたいけど、1人だと行きにくいと相談したら、いつも助手を任せている佐藤は一緒に行くくらいならいいぜと言ってくれた。
少なくとも佐藤が好んで観る作品ではないため、お金は払う気でいたが、さすがにあんたに全額払わせるのはなあ……と渋られ、割り勘になった。

「あんた、ああいう映画が好きなのか?普段読んでるものと違わねぇか?」
「よくわかりますね。私の趣味じゃなくて、母が好きだった映画なんです。リバイバル上映があると知って、せっかくなら映画館で観たいと思って」

母親を早くに亡くした名前にとって、それは母を近くに感じるもののひとつだった。若かった彼女はこれを見てどう感じたのか、どこを好きだと思ったのか……そう考えていると、母を近くに感じられた。

「……そうか」

佐藤に自分の境遇について打ち明けたことはない。それでも、多少事情があるようだと察してくれているらしいことを名前は感じ取っていた。
打ち明ければ親身になって聞いてくれると思う。それができないのは、ただでさえ苦労の多そうな彼にこれ以上負担をかけたくない気持ちがあるからだ。本当なら助手も他の人に頼むべきなのだろうが、それはできないでいた。

「あの主人公の少女は、幸せになれたと思いますか?」
「なれたんじゃないか。そりゃ、外に出れば苦労するし、村に帰りたくなる時もあるだろうが、最後は幸せになれたと思うぜ」


「あ!司書さん!」

図書館に入ったところで堀が駆け寄って来た。今日は午後から休みをもらっていたはずだが、何かあったのだろうか。

「何かあったんですか?」
「職員の方が司書さんを探していて……病院からお電話があったそうです」

さあっと血の気が引いていくのがわかった。病院から電話がある時は良い知らせではない。名前は踵を返して駆け出そうとしたが、佐藤に腕を掴まれた。

「おい、少し落ち着け」
「大丈夫です、とりあえず病院に行きます。今日中には戻りますから」

佐藤は心配そうにしている堀と目を合わせ、小さく頷いた。

「俺も行く。そんな顔色の奴を1人で行かせられないからな」

駆け出す名前を追いかけて、佐藤も走り出した。気を付けてくださいねと堀の声が後ろから聞こえた。名前が向かったのは駅で、慣れた様子で切符を買い、佐藤にも手渡す。

「5分後の電車です。20分くらい乗って、降りてからバスでまた20分かかります」

車内はそれほど混んでいなかった。並んで座ったところで佐藤は口を開く。

「誰か入院してるのか?」
「……祖母が。毎週お見舞いに行ってるし、この前行った時は、いつも通りだったんですが」

声は微かに震えていた。指先も震え出す。それを抑えるように小さくなった名前は黙り込んだ。次で降りますと言うまで、一度も言葉を発さなかった。
バスに乗っても相変わらず黙ったままの名前に佐藤は話しかけることなく、ただ見慣れない景色が窓の外を流れて行くのを見つめていた。

「すみません、苗字です。職場にお電話いただいたようなんですが、祖母は……」
「ああ、苗字さん!意識が戻られて、今は落ち着いてますよ」
「そう……ですか、よかった」

ふうと大きく息を吐いた名前はありがとうございますと言って、受付を後にした。離れたところで待っていた佐藤は表情で大体わかったのか、よかったなとだけ声をかけた。

「はい、今は落ち着いているみたいで。ご迷惑おかけしてすみません」

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