浸透する陽光


よく晴れた日だった。また司書に買い物を頼まれた堀はひとりで歩いていた。

「あっ」

思わず声を上げてしまった。店先に百合がいた。店先でしゃがみ、何かを熱心に見つめている。

「西崎さん」
「堀さん!?」

前にも同じようなことがあったなと思いながら、百合の見ていた方を見れば、桜や梅の花をモチーフにした可愛らしい髪飾りがあった。小物を売っている店なのか、近くにいるのは女性ばかりだ。

「可愛らしいですね」
「こういうのお好きですか?」
「好きというか……西崎さんには似合うと思います」

照れたように頬を赤く染める百合に、堀は思わず微笑んだ。百合は今日は長い髪を結い上げていた。艶のある黒髪には、淡い色の髪飾りが似合いそうだ。
百合は髪飾りをじーっと見つめているが、手に取る様子はない。もしかしたら、買うお金がないのだろうか。
堀は薄いピンクの髪飾りを手に取った。図書館での生活は住む場所にも食べる物にも困らないが、一応お金は渡されていた。酒や煙草に使っている者が多いようだが、どちらもやらない堀はほとんど使っていない。

「堀さん……?」
「プレゼントしますよ」
「えっ!?申し訳ないです!何もお返しできませんし」

百合は慌てて首を振った。

「僕の自己満足ですから」
「……堀さんって絶対にモテますよね」
「えっ……そんなことないです」

男ばかりのあの場所でモテたら大問題である。生前、そういう噂をされたこともある堀としては避けたいところだ。
男が店にいるのが珍しいのか、先程から視線を感じる。百合は遠慮しているだけで、嫌がっている様子はないため、堀は買うことに決めた。
店の女性に髪飾りを渡すと、女性は微笑んで贈り物ですかと言った。不思議なことに堀の横にいる百合に目を向けることはない。きっと喜ばれますよと言われ、堀は小さく首を傾げた。とりあえず、髪飾りを受け取って百合に渡そうとしたが、さっきまでそこにいたはずの百合の姿はなかった。

「西崎さん?」

店の中にはいないようだったため、外に出る。百合は困った顔で立っていた。

「やっぱり迷惑ですか」

堀が肩を落として呟くと、百合が慌てて首を振った。違います、嬉しいですと言う。
買った髪飾りを渡すと、百合は恐る恐るといった感じで受け取った。あたりを見回してから、やっと安心したようにありがとうございますと言った。やはり今日は様子がおかしい。

「何か気になります?」
「いえ、何も。あの、本当に嬉しいんです。今つけてもいいですか?」
「もちろん、どうぞ」

百合は嬉しそうに見えたので、堀は笑顔で頷いた。喜んでもらえたのならよかった。髪飾りは堀が思った通りよく似合い、なんだか嬉しくなった。

「そういえば、以前の小説は書き終えたんですか?」
「はい、あれは最後まで書いてあります」

並んで歩きながら堀が訊ねると、百合はこくりと頷いた。

「西崎さんが書いたもの、読んでみたいんですが、駄目ですか?」
「ひ、人様に見せられるようなものじゃありませんからっ」

顔を真っ赤にする百合を微笑ましく思いながら、堀はそうですか、残念だなぁと呟く。どんなものを書いているのか、堀の影響はそこにあるのか、気になった。
太陽に照らされて髪飾りがキラキラ光るのを堀はぼんやり眺めた。一瞬、百合の姿が透けて見えた気がして目をこする。眩しい光のせいだろうか。

「堀さん?」
「今日は暖かいですね」

不思議そうにしている百合をごまかすように笑った。百合が消えてしまうかもしれないという考えが頭をよぎった。自分の方がよほど不確かな存在だというのに、おかしな話だ。


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