フラスコの底で眠る


こんな夢を見た。
かつりと音がして顔を上げると、ガラス越しに司書が見えた。あたりを見回すと、球体のガラスの中に座っていた。閉じ込められていると言ってもいいかもしれない。司書が大きく見えると思ったら、室生がいるのは司書室にもいくつか置いてあったフラスコの中らしかった。フラスコの中に座れるサイズまで縮んでしまったのだと思うとゾッとする。

「おい!ちょっと出してくれ!」

ガラスを叩くと、何やら見慣れない薬品や乾燥させた植物のようなものを整理していた司書が室生の方を見た。

「身長を伸ばしてくれとは言ったが、むしろ縮んでるじゃないか!」

そもそも頼んだ時は姿を変えることはできないと断られたはずだった。伸ばすことはできないが、縮めることはできる、なんてことがあっていいのだろうか。

「ホムンクルスはフラスコの中でしか生きられないから、出せないんですよ」
「ほむん……いや、俺はそんなんじゃないぞ」

人間だと続けようと思って言葉につまる。本当に人間なのか。自分が室生犀星だという意識はある。しかし、「室生犀星」は何十年も前に死んでいるはずなのだ。死んだ人間が生き返るなどあってはならない。それでも自分は普通の人間なのだろうか。

「でもそこにいてもらうしかないんです」

もう一度ガラスを叩いてみるが、割ることなどできそうになかった。有碍書の中でなければ銃を使うこともできない。一生をここで終えるのかもしれない。そもそも自分は何者なのだろう。

▲ ▼ ▲

「室生先生!」

軽く体を揺すられて室生は目を開けた。ひどく汗をかいていた。

「魘されてましたけど、大丈夫ですか?」

自分の体を確認して、司書を見て、縮んでいないことに安堵した。思えば、司書が口にしたホムンクルスという単語が気になって、昨日調べたのだった。
フラスコの中に座っている小さな人間の形をしたもの。あの怪しげな絵が印象的だったから、あんな夢を見たのだろう。

「フラスコに閉じ込められる夢を見たんだ。ホムンクルスはフラスコの中でしか生きられないって言われて」
「私の周りでホムンクルスを生成した人なんて聞いたこともないので、大丈夫ですよ」
「そうか。ならいいんだが……」

フラスコの中に座れるサイズまで縮んだと思ったらゾッとした、そう呟いた。
司書は閉じ込められたことや人造人間だということよりも、身長が縮んだことの方が室生にとっては大問題なのだと思うと、悪いと思いつつも笑ってしまった。同時に、できるかわからないが、身長を伸ばす方法がないか研究してみようと思ったのだった。

171007

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