もう君も気付くころだろう
こんな夢を見た。
縁側に梶井先生が腰掛けている。近づくと先生はこちらを見る。
「桜の樹の下には死体が埋まっている」
柔らかな風に吸い込まれて聞こえにくかったが、確かにそう聞こえた。少し驚いていると、先生は庭の木を指さした。さっきは咲いていなかったはずなのに、桜は満開だった。そんな季節じゃないはずなのに。
「桜の花があんなにも見事に咲くなんて信じられないことじゃないか」
朗々と読み上げるように梶井先生は言う。そう言われるとそんな気がしてくる。桜は人間を狂わせるとも聞いたことがあるし、何か不思議な力を持っている気がする。死体が埋まっているのも信じられない話ではないのかもしれない。そうだ、あの桜も普段見ているものよりも赤みが強いような気がする。
「あれも……血の色でしょうか」
「そうかもしれないね、血は綺麗な色をしているから」
なんでもないことのように先生は頷く。そうか、桜の樹の下には死体が埋まっているのだと私は思った。だから、あんなにも美しく、人を惹きつけ、狂わせるのだ。
「俺には惨劇が必要なんだよ」
「さんげき……」
その惨劇はどの程度のものだろう。「死」だろうか。他の目も当てられない何かだろうか。
「憂鬱が完成すれば、俺の心は和むんだ。退屈もしない」
綺麗に笑うから、なぜかゾクリとした。惨劇も憂鬱も、和むようなものではない。桜の木が、今まで散っていく姿に儚い印象さえ抱いていた桜が、妙な迫力をもって迫ってくるような気がした。
▲ ▼ ▲
「あ、起きた?」
そこは見慣れた司書室だった。つい先日転生した梶井先生に助手を頼んでいたのだと思い出す。
「俺は気にしないけど、達治は居眠りなんかしたら怒りそうだね」
「普段は居眠りしないんですよ。自分でもびっくりです」
そう答えながらも落ち着かず、窓の外を確認する。桜は咲いていなかった。当たり前だ、そんな季節じゃないのだから。
「あれ、顔色が……。もしかして体調悪かった?」
「大丈夫です。ちょっと起きたばかりでぼうっとしてしまって」
でも、表裏一体なのかもしれない。美と醜も、生と死も。美しいだけのものなんてないのだろう。そして、残忍な喜びというものも存在するのだ。
171014
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参考:梶井基次郎「桜の樹の下には」