惰気満々な妹の自虐


幼少期(2回目)を、個人的には必死に全力で過ごした結果、結局私は再びクズのような生活を送るようになっていた。

小学生の頃あたりまでは、零がどこに行くにも後ろをついていって、零がいじめられたらやり返し言い返し、犬を怖がれば後ろ手に庇ってやり、何かある度に守ってやろうとしていたのだけれど、数年ほど前にはっと気づいた時には、零は私なんかよりももっとずっと立派な人間になっていた。

まず私よりも健康的な生活を送っているし、何よりもバランスよく頭がいい。そして運動ができる。性格も良いし笑顔が綺麗だしモテるし、なんというか、何をとっても否の打ち所がない完璧人間に成長していた。それに比べて私のクズっぷりといえば留まるところを知らず、正直何が「零を守る!」だよ、と自分で思った。

もしもこれで私が双子の姉であったなら、羞恥と自己嫌悪で穴に埋まりたくなるところだった。数時間の差ではあるが、妹の方でよかったと心底思う。

私が零を守りたいのは、ただ単に初めてこの世界で目を覚ました時、零と私の間に確かな血の繋がりを感じたから。もう二度と、家族をなくした時の絶望を味わいたくないからだ。
零を守るためならば、一度は捨てた国際指名手配犯のクラッカー、エルバッチャという渾名を再び背負うことすら厭わない、そう思っている。
ただ、零が言うには、普通の兄妹はお互いをそこまで過保護に守ってやるようなものでは無いらしい。まあ、私の思考回路がおかしいのは当たり前といえば当たり前だ。
12歳から25歳までの10年以上の時間を、他人とほとんど関わることなく、周りの人間から当たり前の常識を学ぶことなく生きてきたのだから。
もちろん、生まれながら頭の抜けたアホだということもあるのだけれど。


高校の入学式の日、高校への道すがら、私は零に、「警察官になりたいんだっけ?」と問いかけた。
いつだったか、零は突然言い出したのだ。将来は警察官になりたいのだと。
もちろん大事な兄の夢を応援したいとは思うけど、警察官だなんて、怪我をするかもしれないし、下手をすれば死んでしまうかもしれない。
零は私が過保護なだけだと思っているようだけれど、もしも零が警察官になって死んでしまうようなことがあれば、私はどんな手段を使ってでも警察に復讐しようとするだろう。警察官がそういう職業なのだということは理解しているけれど、私にとって家族を失うということは、それだけ辛いことなのだ。

私は零の役に立ちたい。零を守りたい。死んで欲しくないし、出来れば目の前から消えないでほしい。
もしかしたら、“零”を失うことが怖いのではなく、“家族”を失うことが怖いだけなのかもしれない。
それでも。
「俺が警察官になるの、嫌か?」
お願いだから、こんなクズでアホで常識のかけた妹の自己満足な願いを聞いてほしいと思っている。
「…零が死んだら、私何するかわかんないよ」
「真顔で言うなよ。…そもそも、俺が死ぬ前提で話すなよ」
「じゃあ死なないって約束してくれるの?」
「分かってるくせに頭の悪そうなこと言うなって」
分かってるんだ。怒りはしなくても、零がこのやり取りを心底面倒だと思っていることなんて。
零の夢は零のものだから、その最終的な決定に私が関与することは出来ないのもちゃんと理解している。
一応は25歳まで生きた経験があるはずなのに、私よりもよっぽど零の方が大人に思えた。



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