再び目を覚ますと、夜が明けていた。

 木目の天井が見えて、私は裸のままタオルケットを被っていた。
 頭がボーッとするのは、だいぶ治まったようだった。

 ふと先程のことを思い出して、泣きそうになった。

 桐生さんは私のことをどうしたいんだろうか。
 抱かれたからこそわからなくなった。好きな人にレイプされるなんて……。


 涙が出ようかというとき、スッと腰に腕が回されて、私は声にならない悲鳴を上げた。
 ギョッとして振り向くと、裸のままの桐生さんがこちらを見つめていた。

「桐生さ、起きて、」

 起きてたんですか、と言いたかったが、喉が最後まで音にしてくれなかった。


 桐生さんはまた、あの聖母の顔立ちに戻っていた。


 何かを恐れながら、私の髪に手を伸ばし、そっと、撫でた。
 彼の表情が、申し訳ないことをした。愛してる。そう伝えていたから、更に気が動転してしまいそうだった。

「桐生さん」

 少しの沈黙のあと、ああ、と桐生さんは声に出した。

「桐生さんは、私をどうしたいんですか」

 桐生さんは一瞬困ったように顔を顰めたが、その後また穏やかな表情に戻って、

「好きだ」

とだけ伝えた。

 全然わからない。全然納得できない。どういうことなの。

「じゃあ、何でそんなに悲しんでいるんですか」

 沈黙が返ってきて、桐生さんは申し訳無さそうにしているばかりだった。……仕方ない。私は彼の腰にそっと手を回して、きゅっと自分を彼の方へ引き寄せた。
 彼の胸に顔を寄せて、自分の気持を伝えようとしてみる。
 わからず屋には、優しくしないといけない。


「昔、」

 ポツリと、頭の上から声が降ってきた。

「うん」

 私は彼の言葉に神経を集中させた。

「昔、好きな人がいたんだ」

「……うん」

「あいつは、俺の目の前で、死んで」

「……」

「俺はあいつのことを、忘れられずに、」



 ああ、なるほど。



――だからお前には桐生は渡さねえよ



 この人は、呪われているのだな。