ワープ装置でみんなから引き離された後、わたしは一人だけ用意された牢に入れられて、コレットとも引き離されてしまった。
確かにコレットは器という使い道があるけれど、わたしは別に何に必要とかじゃないもんね。それでもわたしもここに連れてこられたのは、邪魔させない……というより、戦いには関わらせない、というミトスくんなりの優しさなのかもしれない、なんて思うわたしは、きっといつまでも能天気なのだろう。
それか、マーテルさんが復活した時に、わたしもいた方がいいと思ってくれたのか。どういう理由なのかはわからないけれど……特に見張りもなく牢に放置されている、というのは、わりと嬉しい状況だ。
わたしは誰も周りにいないのを確認しながら、そっと牢の扉を弄ってみる。いろいろと近未来的な機械を使っているクルシスにしては、珍しく鉄格子だなんていうアナログな牢屋だ。隙間に見えない壁がある、というわけでもない。手を伸ばしてみれば、簡単に手は牢屋の外へと飛び出した。
鍵は……うん、壁じゃなくて、鉄格子の中心にある。顔は出せないからいまいち手元はよく見えないけれど、手で鉄格子を伝いながら触って確認する感じ、よくある南京錠みたいなものはなさそうだし……かなり重たいけど、ここに引っかかっている鉄の棒を抜けば外せる鍵、かな?
「……いけるな、これ」
よいしょ、と気合を入れて持ち上げれば、かたん、と音をたてて棒が抜ける。そのままキイと開いた扉に、びっくりするほどザル警備だなと何故かわたしの方が呆れてしまった。
絶対に逃げ出さないだろうと信じられていたのか、それとも、わざと逃げやすいようになっているのか。それはわからないけれど、これは好都合だ。
「……逃げない、って選択肢は、もうないんだよ」
ここに来て、戦うって……ちゃんとミトスくんと話して、怒ってやるって、決めたんだから。一緒にいる選択肢をあきらめないでいるうちは、彼から逃げることはしないって、いっぱい悩んでそう決めたんだから。
ぱしんと両頬を叩いて、牢屋の外へと一歩踏み出した時だ。
「こらこら、ナギサちゃん。どこに行くつもりかな?」
「ゼロスくん……!」
ひらりと手を振りながら現れたゼロスくんに一瞬だけ身構える。
見張りがいないのは彼がいたからかな、と思ったけれど、ゼロスくんは特に武器を構える様子はない。ただ、逃げられたら困っちゃうんだよなあ、と茶化すように笑っているから……だからわたしは、ぐっとこぶしを握って彼を見据えた。
「……おしりを出してもらおうか」
「へ?」
きょとん、としたゼロスくんの反応は無視して、ぶんぶんとその場で素振りをするように手を振る。もちろん、彼のお尻を叩くイメージトレーニングである。
お仕置きにはお尻叩き。リフィルさんもそう言っていた。
「ロイドたちのこと泣かせたから、ひっ叩こうと思って」
「おいおいおい、あれ結構痛いっていうか、前にいきなりやられた時はめちゃくちゃびっくりしたんだぞ!」
「あの時は本当にごめんね。今回はちゃんと叱るつもりでやるね」
「そゆとこ! ナギサママとかおばあちゃんとか言われるのはそういうとこ!」
ささっと自分のお尻を抑えながら叫ぶゼロスくんに、じりじりと近付いていく。
まあ、本当に叩くつもりはない。単純に出口もそちらにあるから、というのが理由の半分くらいを占めている。叩いていいなら叩くけど。
しばらく対峙しあって、じりじりと距離を詰めて……うーん、武器は構えてないけど、腕の長さとか考えるとゼロスくんの横を突っ切っていくのは難しそうだな、と判断して。わたしはふうと肩をすくめた。
「……という冗談は置いといて。そこを退いてほしいな、ゼロスくん。別に見張りもいないんだし、逃げてもいいってことでしょ」
「逆だよ、逆。絶対に逃げないでくれるだろうっていう信頼」
「じゃあなんでゼロスくんは待機してたの?」
「ん〜? だってこうと決めたら頑固だっていうのも知ってるしな。それに俺さま、あいつのこと嫌いだけどさ。か〜わいいナギサちゃんを泣かせたくないからなあ〜って」
ゼロスくんはそうやって茶化すように笑った後、ふ、と急に優しい顔をしたかと思うと、小さい子供に言い聞かせるように口を開いた。
「このままここにいれば、戦わなくてすむぜ」