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「……は?」

きょと、とするゼロスくんに、わたしはなるべく強気に見えるように笑ってみせる。
そう。ゼロスくんは、ロイドたちが大好きだ。今までも何度もそう言ってきた通り。彼は、みんなのことが好き。わたしのことも、みんなのことも、……セレスちゃんのことも

「ちょっと、何をいきなり……」
「さっき、わたしたちを連れてくるとき。セレスちゃんに神子を譲れてせいせいしたって言ったけど。……あれ、嘘だよね」

彼女の名前を出せば、ゼロスくんはぴくりと頬を引き攣らせる。
わかりやすい動揺だ。なら、この考えは、きっと間違っていない。
わたしはドキドキと緊張で高鳴る心臓と、何か間違えていたらどうしようと小さく震える体を無視して、そのまま言葉を続けた。

「君がセレスちゃんのこと大事に思ってるって、みんな知ってるよ。それこそ彼女の言葉をちゃんと理解できてないくらいに大事にして遠ざけてるって、たった一回会っただけでもわかる。それなのに、自分が嫌だって思うことを彼女に押し付けるなんて思えない。今も心配してくれるばっかりだし、わたしに対して武器とか抜く気配がないよね。……わたしの気持ち、確認しに来てくれたのかな」

ゼロスくんにとって、妹のセレスちゃんがとても大事な存在であることは、彼女とたった一回しか顔を合わせていないわたしたちでもよくわかる。距離感を掴みかねているような態度に、自慢したいような、遠ざけたいような彼女への評価。
確かに彼女のツンツンした態度も相まって、表面だけ見ればギスギスした関係ではある。神子の宝珠を預けていたというのも、彼女に神子の任を押し付けたかったから、と言われれば納得だ。
けれど、ただそれだけなら、あんな風に彼女を心配するような目を向けないし、教皇がセレスちゃんを代わりに立てると言った時に、妹を巻き込むつもりだったかと顔をしかめる必要もない。あの時ですらあの反応だったのだ。自分が嫌でたまらない神子という役割を、彼女に押し付けるとは思えない。

そしてゼロスくんは、いつでもわたしを牢屋に押し込めることができるのに、それをしない。
それこそ、天使を呼んで来ればいいだけだし。でも、それはしない。誰かを呼んだ素振りもない。むしろ、ずっとわたしを心配するようなことを言ってくれている。

「ロイドに、信じてるって言われて。憎まれ口は言ってたけど、否定はしなかったよね。結果として、今コレットがピンチなのは間違いないから、裏切ったのも事実だと思うけど……でも、何か理由があるんだよね。例えば、何かここで、探し物をしているとか」

ここらへんは、わたしの希望的観測でしかない。実際、今困った状況になっているのも事実だ。でも、確かに今まで一緒に旅をして見てきたゼロスくんのことを考えると、どうしても裏切った、裏切り者、と糾弾することができないのだ。
これは、ロイドがクラトスさんのことを持て余していたことに近いのかもしれない。優しい人だって、信じていい人だって思ってしまった。信じてもいいかもしれない理由を見つけてしまった。
この状況で、ゼロスくんは裏切り者だと警戒し続けることは、わたしには無理だった。

「それに、ロイドは今も君を信じてるから。だから、君は裏切らないよ」

だからそこを通してほしい、と言えば、ゼロスくんはしばらくわたしを黙って見つめた後、突然はじけたように笑い出した。
馬鹿にしている、という感じではない。驚いていると言うか、楽しそうというか。とにかくお腹を抱えて一人でいっぱい笑ったゼロスくんは、やがて笑いが収まると、は〜っと大きく息を吐いた。

「……かなわねえなあ、ほんと」

そう言ってわたしの前から少しだけ体を退かすと、ゼロスくんはくるりと後ろを向く。表情は見せてくれないけれど、声色は明るいから、たぶん、怒っているわけではなさそうだ。
そのまま扉の方へ指をさして、ほら、と口を開いた。

「扉を出たら、道は一本道だ。まっすぐ行けばいい。お察しの通り、俺にはやることがあるから、一緒には行かないけどな」
「ゼロスくん」
「いいから行け行け、俺さま忙し〜の!」

しっしっと手を振るゼロスくんにうなずいて、わたしは彼の横を通り過ぎる。
そうして扉に手をかけてから、もう一度彼へと向き直った。

「……みんな、待ってるからね」

だからちゃんと戻ってきてね、と言えば、彼は無言で手を挙げて応えてくれる。
それだけで十分だった。わたしはありがとう、と伝えて、そのまま扉の外へと駆け出した。