「ミトスくん!」
ゼロスくんの言った通り、一本道だった通路をまっすぐ、ひたすらまっすぐに駆け抜けて、その大きな扉を開く。
鍵のかかっていなかったそこを押し開いて中に入れば、広いその部屋の中心に大きな装置が置いてあるのが見えた。
人一人くらいなら入れそうなそれと管で繋がれた大きな花のような光。
その装置の中に寝かされているコレットだ。そして、花のようなものに横たわるマーテルさんの姿が見えて、この花が大いなる実りなのだとすぐに理解する。マーテルさんから光のようなものがコレットに向かっているのは、つまり、今、現在進行形で、コレットを器として、マーテルさんを生き返らせようとしているということなのだろう。
そんなのダメだ。そんなこと、マーテルさんは望まない。わたしだってコレットを失いたくない。止めなくちゃ。
その装置の前にいる、ユグドラシルの姿をしたミトスくんとプロネーマの意識を作業から少しでも逸らすために必死に声を張り上げれば、こちらへ振り向いたミトスくんが驚いたように目を大きく開いた。
「ナギサ、どうしてここに……」
「脱走するの、この旅で慣れちゃったからね」
「……そうか。ならそこで待っていてくれ」
ミトスくんが腕を揮うと、どこからともなく数人の天使たちが現れる。
本当にここでわたしに攻撃するつもりはないと思うけど、彼らは一斉に武器を突き付けてきては、わたしがこれ以上動けないようにと牽制してきた。
強行突破、するのはだいぶ厳しい。剣の切っ先、ちょっと当たってるし。帯を広げる前に刺されちゃうな、これ。
もともとミトスくん相手に武器を構えるつもりはなかったけど、これじゃ近付くこともできない。すっかり動くことができなくなったわたしを見て、ミトスくんはふ、と小さく息を吐いた。
「今度こそ姉さまも目覚める。この体は姉さまの固有マナに一番近いんだ。今まで何度も失敗したけど、今度こそ絶対にうまくいく」
「ミトスくん。わたしの話、聞いてくれる?」
手は伸ばせないけど、声だけは届けられるはずだ。
そう思って口を開けば、ミトスくんはただ静かにわたしを見る。それ以上何も言わないってことは、聞いてくれる気はあるってことだ。たぶん。そうでなくても、わたしは話しかけるつもりだったけれど。
切っ先が当たらないようにほんの少しだけ体をずらしながら、わたしは天使たちの向こう、ミトスくんだけをしっかりと見つめて、あのね、と話し出した。
「前にも言った通り、わたしは君と戦いたくない。でもコレットを犠牲にはしたくない。夢物語でも、綺麗ごとでも、誰も傷つかない世界を見たい。だから君のやり方には賛同できない」
「……知っている。キミがボクに賛同してくれないことは、最初からわかっている」
「でも、わたしは今でも……四千年の時を超えてしまった今でも、この世界に来たのは、君に会うためだったって、信じてるよ」
昔、この世界に来たのは、ミトスくんとマーテルさんに出会うためだったらいいなって思ったことは、今でも変わらない。
だからこそ、何故か時間を越えてしまった後はすごく不安で、申し訳なくて。せめて、守れなかった約束の代わりに、もう誰との約束も破りたくなかった。大好きな人を守りたかった。守りたいって、守れるような自分に変わりたいって思って頑張ってきた。それが、置いてきてしまった二人へ、わたしが出来る唯一だって思ってたから。
オゼットでミトスに会って、ミトスくんにそっくりなのに違う人だって言う彼のことを好きになるごとに、ミトスくんのこともたくさん思い出していた。会いたいなって思って、泣きたいなって思って、そうして勇者ミトスがミトスくんだって知った時は嬉しかったし、ユグドラシルだって知った時はびっくりして……いろんな事実が明らかになって、もうわけがわからなくて、泣いて、ちょっとムカムカして、それで、それで。
わたしは、君にもう一度会うために旅をしてきたのかもしれないって。そう思ってしまうくらい、好きだったんだって、思って。
「わたし、君とこれからも一緒にいたい。だから、ちゃんともっと、話がしたいよ。妥協でもいい。みんなが納得できるやり方を、君と一緒に探したい」
好きな人と、今度こそ一緒にいるために。
わたしは、もう一度出会った君と、そういう話をしなくちゃいけないって、決めたんだ。