「マナの充填が終了したようです」
わたしと話している間も、プロネーマや他の天使たちは着々と準備を進めていたのだろう。
そう冷静に進言した彼女に、ミトスくんは装置へと視線を戻した。その横顔はもう、ミトスくんではなくて、クルシスの指導者ユグドラシルのものだ。遠のいた距離を感じて、わたしは一歩前に踏み出す。
「よし、やれ」
「まって!」
「コレットをかえせ!」
ぴり、と突き付けられていた剣の切っ先が腕を裂いたけれど止まるわけにはいかない、と思ったところで、今まで聞こえなかった声が部屋の中に響いて再び動きを止めた。
声を張り上げながら現れたのはロイドだ。
一人でここに現れたロイドを見て、ミトスくんが再び驚愕で目を見開いた。
「ロイド!? きさま、どうやってこの部屋へ。ここのカギはクルシス幹部にしか開けられないはずだ」
あれ、ここに来るまでに鍵なんてなかったと思うけど。そう不思議に思ったところで、そもそもわたしと入ってきた扉が違うか、と納得する。
本当に、逃げ出してくるなんて思ってもいなかった、というところだろう。
ロイドはまっすぐにミトスくんを見据えながら、ぐっとこぶしを握った。
「そんなこと、どうだっていいだろ! どのみち、お前の身勝手な千年王国の夢は、ここでつぶされるんだ」
「お前ひとりで何ができる」
ミトスくんが言った通り、この場にやってきたのはロイド一人だけだ。
後から来るのかと思ったけれど、足音だって聞こえてこない。ここまで来るのにはぐれてしまったのか、それとも別行動をしているのか。
「ロイド、みんなは……」
「みんなは……俺を先に行かせるために、今も戦ってる」
「なるほど。ここまで来るのに、あらゆる仕掛けが施してあるからな。皆、お前のための犠牲になったのか」
「違う。俺は託されたんだ」
意地悪く笑うミトスくんの言葉通りなら、みんなはロイドを先に進ませるために、そのあらゆる仕掛けとやらに対応して留まっているのだろう。
リフィルさんなら、誰かが足止めをするために脱落することになっても、必ずロイドをコレットのところへ進ませようと考える。みんなも、それに異を唱えることはしないはずだ。
そしてロイドも、ちゃんとみんなの気持ちをわかっている。だからこそ、未だ彼の目はまっすぐに前を見ていて、力強い光を宿しているのだ。
「みんな、俺に先に進ませてくれた。俺を信じて、託してくれた。そして絶対に、今も戦っている。……だから俺は、絶対にお前を止めるんだ!」
「無駄なことを……」
はあ、と呆れたように息を吐いたミトスくんが、ふっとロイドに向かって一気に距離を詰めたかと思うと、そのまま手を振り上げる。
だめだ。わたしはミトスくんと戦いたくないけれど、ロイドだって傷つけたくない。止めなくてはと駆けつけようとして……けれどその前に、どこからか飛んできたファイヤーボールが、ミトスくんへと直撃した。
「ロイドは傷つけさせないよ!」