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目的を違えた時。武器を持って戦うっていうのは、たぶん、一番簡単なことだ。
勝った方が正しい。負けた方は諦める。単純でわかりやすい方法だ。
でも、そうやって傷付けてしまえば遺恨ができる。お互いに傷つけあったことは忘れないし、もう一度手を取り合うのはとても難しくなる。払う犠牲も大きくて、だからこそ、わたしの世界ではそうやって戦い、争うことはやめようという動きができたのだ。
代わりになったのは、対話だ。暴力を振るわずに戦うのであれば、話し合うしかない。お互いが求めることをとことん話し合って、じゃあどうすればお互い納得できるかを話し合う。妥協でもなんでもいい。お互いがお互いを尊重しながら戦うなら、これしかない。

「ミトスくん。もう一度考えよう。今度はわたしも一緒に考えるから。今度はもう……君の前からいなくなったりしない。一人になんてさせないから」

わたしはもちろん、討論だって苦手だ。だいたいのことは誰かに決めてもらってきたし、決められた流れに沿うように行動してきた。あの世界に生きていて喧嘩に慣れていないってことは、とことん会話することだって、当然慣れていない。
でも。慣れていなくて、丸め込まれることになったって、いい。会話がしたい。みんなが納得できるやり方を、ちゃんと探したい。

一生懸命にそう伝えれば、わたしの話をじっと聞いていてくれたミトスくんは、夢見がちな方法だね、と薄く笑った。

「対話だけで解決するなら、最初からこんな風にこじれたりしなかったよ」
「それは、わかってるよ。だからって、諦めたくない」
「諦めないって、いつまで? キミはそのうち死んでしまう」
「でもわたしは、それまでずっと君のそばにいたいって言ってるんだよ。それまでっていうのが嫌なら、わたしを天使にしてもいい。わたしは、君と一緒にいたい」

とんだ我儘だ。あれはしたい、これはしたくない、そればっかり。自分でもわかっている。しかも天使にしてもいいなんて、そんな言葉が出てくるとは思わなかったのだろう。素直に驚いた顔をするミトスくんに、わたしはすごく泣きたくなった。
そりゃあ、それがすごくつらいことだって、わかってるよ。コレットが苦しんでいたことを知っている。クルシスの輝石のせいでいろんな人が苦しめられたこと、ちゃんと見てきた。それでもその言葉を言うんだもん、何を言っているんだって思うに決まっている。
でも、でも。
それでもいいって、思ったんだ。苦しくても、一緒にいたいって思ったんだ。

「わたし、怒ってるんだから。あんなにわたしに優しくしてくれたのに、わたしと一緒にいるって選択をしてくれないこと、怒ってるんだから。そばにいたいって言わせてくれなかったこと、すっごく怒ってるんだから!」

この怒りは、きっとおばあちゃんになったっておさまらないよ。ずっと一緒にいてくれないと、絶対におさまらない。
そう、そうなの。怒ってるの。わたしも頑張るから一緒にいてよって、言っているの。
怒るのに慣れていなくて、へたくそで、なんだかすごく目の奥が熱くなりながらも、なんとかそう訴える。この気持ちの落としどころを一緒に探したいって、そう、ひたすらに彼を見つめる。手を伸ばせなくても、絶対に手放したくないと訴えかければ、彼はついと大いなる実りへと……マーテルさんへと視線を動かした。

「……君曰く、許されないことをしたというのに。そばにいてくれるのか?」
「君が許してくれるのなら」

即答する。覚悟を持って、彼を見つめる。
ミトスくんから、目を離さない。

「だから、ねえ、お願い。コレットのことを開放して。たとえマーテルさんが復活しても、誰かを犠牲にしたなんて知ったら悲しむよ。わたしもあの人が好きだから、それくらいわかるよ。わたし、あの人を泣かせたくない」
「ナギサ」

不意に、優しい声が鼓膜を震わせる。
大いなる実りを見つめるミトスくんは、優しい声で、わたしの名前を呼んだ。

「ボクはこの四千年。ずっとこの日を夢見ていたんだ。姉さまが目を覚ましてくれる、この時を。そのためならどんな犠牲を払っても構わないほどに、願っていたんだ」

あ、と、思った。
振り向いたミトスくんと目が合って、だめだ、って、思った。
声は、きっと届いていて。きっと、彼も理解はしてくれている、のに。

「それが、やっと、叶うんだよ」

差し出した手は眺めるだけ。
ミトスくんに手を取る気持ちがないってこと、わかってしまった。