「ユグドラシルさま……苦しい……お助けください……」
戦闘の末、戦うための体力を奪ったけれど、プロネーマは意識を手放すことはせず、地を這いながらミトスくんの方へと手を伸ばす。
ミトスくんは、けれど彼女を視界にとらえることはしない。周りの天使たちを全員倒しても、その視線はずっと、装置へ向けられたままだ。決して。決して、他を見ようとはしない。
やがて光がすべてコレットに納まるのを見て、彼はそれまで動かさなかった表情を、一気に嬉しそうに綻ばせた。
「成功だ!! 姉さまが目覚める!」
嬉しそうなその声色は、ずいぶんと声変りしたはずなのに、ミトスくんそのままだ。
ユグドラシルの姿になっても変わらない、大好きなお姉ちゃんに会えることを喜ぶ無邪気な横顔に、わたしは何と声をかければいいのかわからなくなる。
……彼が、彼のままであることは、わかっている。彼がどんな姿でいようとミトスくんと呼びかけてしまうのと同じだ。彼の本質はきっと変わっていない。お姉ちゃんのことが大好きな弟のまま。
だけど。だから。彼の笑顔を遮るようなことはしたくないと反射的に思ってしまって、彼の方へ駆けだそうとした足が躊躇ってしまう。
「ユグドラシルさま……ミトスさま……どうか……」
それでも、彼に近付くことをやめず、助けてほしいと手を伸ばしたプロネーマに、ミトスくんはようやっと彼女の方へと視線を落とす。
けれど、すっと目を細めた彼が苛立っているのが、ここからでもわかってしまって。
え、と思うより先に、彼が手を振りかざす方が速かった。
「私をその名前で呼んでいいのは、私のかつての同志だけだ! 消えろ!!」
そう叫んで、プロネーマの体を光が貫く。
悲鳴も、言葉も、何もなく。
光に貫かれた彼女の体は吹き飛ばされて、あっさりと消えてしまった。
「ど、どうして……」
「ひ、ひどい……」
あまりにも当然のように切り捨てられ死んでいった彼女を見て、ぞわりと体が震える。
……彼は、こんなにも簡単に、誰かの命を奪うような人、だったっけ。
違う。そういうことを、嫌うはずの人、だった。誰かのために立ち上がり戦う子で、傷つけられても、誰かを傷付けるような子ではなくて。だから……こんな世界の形を作り上げたことも、最初は信じられなくて。でも、マーテルさんのために、マーテルさんだけを助けると決めて、他の犠牲は全部見ないふりをしているだけ、だと、思っていた。
それなのに、こんな。自分の意志で、あっさりと。誰かの命を奪う姿を見て、ショックで。か細く漏れた声以上の言葉が出てこなくて呆然としている間に、ゆっくりと装置を固定していたアームが解ける。
そうして、コレットを閉じ込めていた蓋が開くと、彼女は静かに目を開けた。
数度、まばたき。そうして起き上がったコレットに、ミトスくんはうっとりとほほ笑んだ。
「姉さま……! やっと、目覚めてくれましたね」
「うそだろ……コレット! うそだろ!」
コレットの視線は、ロイドには向かわない。
静かに辺りを見回して、一瞬、わたしと目が合って。眉を下げた後、彼女の視線はわたしを通り過ぎて、ミトスくんで止まる。
立ち上がって、彼の方へ近付いて。
そうして、見覚えのある、悲しそうな表情を浮かべた。
「ミトス……あなたは、なんということを……」
コレットの口から聞こえた声は、彼女の可愛らしい声ではない。
……懐かしくて、優しい、マーテルさんの声、だった。