「マーテル……さん……」
その、懐かしい声を聞いて、今コレットの体を動かしている意識は、間違いなくマーテルさんなのだと理解してしまった。
ひゅ、と後ろでロイドたちが息を飲むのが聞こえる。けれど、マーテルさんが浮かべるその悲しそうな顔に、誰もそれ以上声を上げられなかった。こんな悲しそうな顔をする人に、その体を返せ、とは、言えなかった。
……ほら。やっぱり。マーテルさんは、こんなの望んでないよ。
そう言いたいのに。ミトスくんは不思議そうに首を傾げて、マーテルさんの言いたいことがわからないと眉を下げる。
本当にわからないのか、わかりたくないと思っているのか。彼女の表情の理由を、彼は理解していなかった。
「姉さま? ああ、この体のことですか? クルシスの指導者としてふさわしく見えるように、成長速度を速めたんです。待ってください。今、昔の姿に戻りますから」
そう言って、その姿がユグドラシルではなく、ミトスのものへと変わる。
アルテスタさんの家でも見たけれど、その体の身体年齢は本人の意志で自由に変えられるらしい。
これでいつも通り、昔通りでしょ、とあどけなく笑う彼は、少しコレットに似ていた。
「ミトス、そうではないのよ」
ずいぶんと視線の近くなった弟に、マーテルさんは悲しそうに首を振る。
そうではない。見た目を気にしているのではない。どうか自分の言葉にちゃんと耳を傾けてほしい、と彼女はこぶしを握った。
「私はずっと、あなたを見てきました。動かぬ体で、ただなすすべなく、あなたがしてきた愚かな行為を」
一言一言、しっかりと相手に伝わるように。幼いミトスくんの聞き分けが悪い時に、これは悪いことだと、危ないことだと言い聞かせていた時と同じように。ゆったりとした口調で、しかしはっきりと、彼女は言葉を選んでいく。
「忘れてしまったの? 私たちが古の大戦を食い止めたのは、人と、エルフと、狭間の者とが皆、同じように暮らせる世界を夢見たからでしょう?」
「何を言っているの、姉さま? せっかく新しい体を用意したのに。やっぱりそれでは気に入らなかったんだね」
「ミトス。お願いです。私の言葉を聞いて」
そっと、彼女は彼の手を取る。しっかりと目を合わせる。
そうして、きっと、マーテルさんだって言いたくなかっただろうに。
その言葉を、彼女ははっきりと言葉にした。
「あなたのしてきたことは、間違っている。少なくとも、私たちが目指してきたものとは違います」
……ミトスくんは、間違えて、しまっているのだと。