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光となって大いなる実りへと消えていったマーテルさんを見送った後、部屋の中には静寂が落ちる。
ただ静かにそこに佇む大いなる実りをみんなが見上げる中で、一番最初に音を発したのは、ミトスくんだった。

「……そうか。そうだったんだ。あは……はははは……」

呆然と。乾いた声を零す彼の視線は相変わらずマーテルさんに向けられている。
けれど、その横顔に浮かんでいるのは、姉に会えて喜んだ弟のものでも、ジーニアスの友達のものでも、わたしを助けてくれた男の子のものでもない。
傷付き、疲弊し、そして……目の前のことを信じられない、逃避するような、いびつなもの、だった。

「姉さまは、こんな薄汚い大地を捨てて、デリス・カーラーンへ戻りたかったんだ。そうだよね。あの星はエルフの血を引く者すべてのふるさとだものね」
「ミトス……?」
「わかったよ、姉さま。こんな薄汚い連中は放っておいて、二人で還ろう。デリス・カーラーンへ」

優しく。夢見るように語りかけて、彼が両手を広げる。そうすれば、大いなる実りがゆっくりと浮上し始めた。
いったいどういうことなのだろう。デリス・カーラーンへかえる? デリス・カーラーンって、マナの塊の彗星のこと、だよね? そこへ、大いなる実りと同化したマーテルさんと一緒に行くってこと? どうして……どうして、そんな話になるの?
彼のその行動の意味を必死に飲み込もうとしている間に、わたしの腕の中で気を失っていたコレットがはっと目を覚ます。彼女は勢いよく起き上がると、間違いなくコレットの声を張り上げた。

「みんな、ミトスを止めて! 私の中にいたマーテルが、私に呼びかけるの! マーテルは……ミトスを止めてほしいのよ!」
「ふざけるな。姉さまがそんなこと言うわけがないだろう、この出来損ない!」
「言ってたもん! これ以上、人やエルフを苦しめないでって、泣いてたもの!」

コレットの言葉はきっと本当だ。けれど、ミトスくんはもう、自分が信じた選択肢以外を聞き入れる気はないのだろう。
かつての仲間だったユアンとクラトスさんの心はもう彼の傍になくて。マーテルさんにも、ミトスくんのやってきたことは間違いだと指摘されて。きっと、間違えていると言われたあの瞬間に、ミトスくんは崩れ落ちてしまったのかもしれない。
だからコレットの言葉を無視して、デリス・カーラーンへとかえろうとする。

でも、このまま大いなる実りを奪われるわけにはいかない。
二つの世界を維持するわずかなマナを生み出すのは大いなる実りだ。それがこの世界からなくなってしまえば、当然大樹は発芽しないし、世界は救われない。そんなのは、絶対にだめ。
レネゲードや、ミズホの民や、それ以外の多くの人の気持ちを背負って、わたしたちはここにいるのだ。大樹を発芽させて、世界をひとつに戻すために戦うことを選んで、ここにいる。
みんなのためにも、今まで選んできた選択の責任を取るためにも、マーテルさんのためにも、彼らをデリス・カーラーンに行かせるわけにはいかない。

「ボクの邪魔はさせない」

彼を止めるために武器を構えたロイドたちを気配で察したのか、振り返ったミトスくんの手に再び光が集うのを見て、わたしは勢いよく地面を蹴った。

……マーテルさんはちゃんと、ミトスくんのことを心配しているんだよ。君のことが大好きだから、この方法は正しくないって言ったんだ。
彼女が夢見た世界は、かつてわたしたちが目指した世界は、こんな形じゃない。
お願いだよ。その言葉を聞いて。聞くほどの余裕がないなら、寄りかかってくれていいから。八つ当たりしてくれても構わないから。
戦うことになったって、いいから。
彼女の願いを、ちゃんと聞いてほしい。

「ミトス!」

君が、わたしと目を合わせてくれなくても。
わたしが伸ばした手を取ってくれなくても。
わたしは、ミトスくんを諦めないから。