しいなと、わたしとロイドの三人でミズホの里へ訪れると、先にくちなわさんから決闘の報告があったが本当かと、慌てた様子でおろちさんが出迎えてくれた。
どうやら、基本的にミズホの民同士が決闘をするのは禁じられているらしい。それなのにどうして、いったいどういうことなのだと問いかける彼を連れて、副頭領であるタイガさんの家で、しいなは事情を話した。
事情を話す、とは言っても、細かいことは言わない。彼が教皇と通じていたことも、何も。ただ、ヴォルトの因縁だと、それだけを彼女は話した。
もちろん、わたしたちも、しいなが語った以上のことは言わない。ヴォルトの因縁こそが、彼にとって一番重要なことであるし、これは彼と彼女の戦いだから。わたしたちが水を差すようなことはしたくなかった。
罪人は、里を出る。
負けた者が、里を去る。
評決の島と呼ばれる場所で二人は戦い、勝敗を決する。
それが掟だと告げて、タイガさんは島の場所を教えてくれた。川をしばらく渡ったところにある小島がそうらしい。
道と、そこに行くために使う小舟の場所を伝えて、それ以上は何も言わずに見送ってくれるタイガさんに頭を下げて、わたしたちは家を出る。立会人とやらに選ばれたロイドとわたしとしいなの三人で、評決の島へ行くための小舟へと向かった。
「おお……浮いている」
「やっぱりたらいっておかしかったんだよな」
「すごい、全然浸水しない」
「やっぱりいいな、船……」
すごく、すごく当然のこと、なんだけど。
ちゃんと水面に浮かんでいる小舟を囲んで、ほあ、とロイドと二人で息を吐く。
評決島へは船で川を渡ってくれと言われて、わたしもロイドも、どうしてもたらいを思い出して身構えてしまっていたのだ。あの体験は本当に衝撃的だった。もうしたくない。いや、エレカ―とかレアバードがあるからもう経験なんて絶対しないだろうし、ここはシルヴァラントではなくテセアラなのだから、たらいだけで海に放り出されることはまずありえない。
そうわかっていても。こうして実際にしっかりとした小舟を見るまで、気が気でなかった。よかった。ロイドと二人で小舟を押したり揺らしたりしながら安心していると、しいなが呆れたような顔でため息を吐いた。
「あんたたち、あれが一般基準だなんて思ってないよな?」
「思ってないよ。思ってないけど……なんか、あまりに新鮮で……」
「まったく……相変わらず、緊張感がないねえ」
ふは、と笑って、しいなが船に乗り込む。うん、緊張感、本当にないな。いつもはそうやって苦笑するの、わたしの役割だった気がするんだけど……でも、これから戦わないといけないしいなの緊張が少しだけ解けたような気がするので、よしとしよう。
緊張しすぎてもよくないね、とわたしたちも続いて乗船して、ロイドが持った櫂をめいいっぱいに動かして、岸から出る。
そして、ゆっくり。川を進みだした小舟に揺られながら、わたしは船の先に立って遠くを見据えるしいなの背中をじっと見た。
……たぶん。たぶんだけど。しいながこのタイミングで決闘に挑むことにしたのは、わたしのためでもある。こうして言うと自惚れているみたいでちょっと気まずいけど、「戦って、前に進むあたしを、見てほしい」という言葉は、そういうことだ。
戦って、もう仕方ないからって立ち止まらずにいようとするわたしに。
戦って、ちゃんと自分で前に進む姿を、見せてくれようとしてくれている。
「ねえ、しいな、その……」
「あー、待っとくれ。これはあたしの自己満足。あたしのための戦いで、あたしのための行動だ。あんまりむず痒いこと言われると、集中できないからやめとくれよ」
ひらひらと手を振って、あーあー聞きたくない、と背中を向けたまま声を上げるしいなに、わたしは素直に口を閉ざした。
顔は、見えないけど。彼女が照れていることはわかったし。確かに集中を乱すのはよくない。
でも何か言いたくてもじもじと落ち着かずにいれば、しいながはは、とまた笑ったのがわかった。
「……あんたもジーニアスも、戦った。ロイドも、これから戦う。なら、あたしだって戦わないといけないって思った。あたしだって、できるなら戦いたくないさ。だって、あたしは……くちなわのこと、本当に大切な仲間だって思っていたんだ」
でも、と。彼女は言う。
ずっと前を見ていた顔を少しだけ振り返って。
その、強くて、まっすぐな目を、わたしに向ける。
「でもあたしは、戦うよ。……馬鹿みたいって思われるかもしれないけどさ。戦わないと、前に進めないんだ、あたしたちは。それに。憧れてるって、言われちゃったからねえ。かっこつけさせておくれよ」
ちゃんと見ていて、と笑う彼女の横顔は、なんだかすごく、眩しくて。
すごくかっこいいな、って、思った。