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評決島、と呼ばれるそこは、小さな島だ。というより、家なんて一軒建てたらそれだけで全部の面積が埋まってしまいそうなくらいに狭いし、島と呼ぶのもちょっとためらってしまうかもしれない場所だ。
けれど、数人の人間が戦闘をするくらいなら、ちょうどいいのかもしれない。それこそ決闘するためだけの場所だと思えば、評決島という名前もふさわしいもののように思えた。

その島にある、一本の木。その下で、彼は待っていた。
彼は……くちなわさんはわたしたちの姿を見ると、すっと目を細めてこちらへと近付いてくる。

「しいな! 待ちかねたぞ」
「……どうしても戦うのかい?」
「当たり前だ。立会人はそいつらか?」
「そうさ。ロイド・アーヴィングが立会人だ。ナギサは、あたしの覚悟を見届けてもらうために来てもらった」

二人は岸の傍で見ていてくれ、と言われて、観戦者であるわたしは素直にそちらへ移動する。
ただし、立会人、と言われたロイドはそこに止まったまま、なあ、と声をかけた。

「なあ、立会人ってどんなことをするんだ?」
「勝負の成り行きをただ見守り、どちらが負けを認めるか……」
「あるいは死んだとき、それを確認する役割だ」

つまり、第三者として公平に勝負を見守れ、ということなのだろう。
手出しはしない。見守るだけ。もしもしいなが劣勢になっても、助けることはできない。
けれど。それでも今、この戦いを選んだのだから。しいなに、負けるつもりはないってことだ。なら、わたしは信じるしかない。
こちらを見て、ひとつうなずいてみせた彼女に、わたしもぎゅっとこぶしを握る。見届けるよ。絶対に目をそらさないから。だから……前に進む姿を、見せてほしい。

わかった、と立会人としての仕事を理解したロイドが、二人をよく見ることのできる場所へと移動する。
しいなとくちなわは、お互いの得意な攻撃範囲から少し離れたところに向かい合って立つと、静かに深呼吸を始めた。
集中。静かに。そうしてお互いを睨み合う。視線をそらさない。目の前の相手を、きちんと見る。

「……それじゃ二人とも、勝負だ!」

ロイドの声を合図に、二人は同時に地面を蹴った。
動いたのは一瞬、だ。
この決闘に、長々とした攻防戦は必要ない。軽い身のこなしで一気に距離を詰めた二人は、お互いの得物を握って相手に振るって……すぐに、勝敗は見えた。

くちなわさんの刃は、しいなの札を切り捨てることができなかった。
そして、しいなの札は、間違いなくくちなわさんの力を奪い、跪かせた。
その喉元に突き付けられた札が、いつでも彼の命を奪えることを、他の誰よりもくちなわさんが理解していた。

「腕を……あげたな」
「……負けを認めろ」
「俺を殺したくないというわけか。そんな同情は……お断りだ」

お互いに怪我はしていないし、動けなくなったわけではない。明確は勝敗はついていないように見える。
でも、彼らはこれだけでわかったのだろう。お互いの戦い方をよく知っているから。実際に武器を交えて、これが……しいなの、勝利であると。
だから彼は、悔しそうに歯噛みした後、懐から取り出したコリンちゃんの鈴をしいなに投げつけるようにして返した。彼女がそれをおっとっと、と受け取る間にゆらりと立ち上がって、距離を取って。
そうして、まだ握ったままだった刃を、高く振りかざした。

「……負けたのは我が未熟さのため。さらばっ!」