128-3

「やめろ!」

自分に突き立てるために振りかざした刃を見て、すぐにその目的が自害であることを察したしいなが素早く刃を叩き落とす。
くちなわさんの手から弾き飛ばされた小刀がそのまま地面に突き刺さったのを見て、わたしは思わずひっと息を飲んだ。

「何をする!」
「死んじまったら、終わりだろ!」
「……そうだな」

憤慨した様子でしいなを睨みつけるくちなわさんに、ロイドは静かに口を開く。
きっと、目の前で自害しようとした彼に、ロイドだって動揺しただろうに。少しだけ引いた顎が彼の緊張を示していたけれど、それでもロイドは、それを表に出すことはせず、ただ静かに二人に近付いた。

「お前の負けは確認した。勝負は終わりだ」

第三者として決闘を見守る立会人にそう言われたのなら、返す言葉は見つけられないのだろう。
くちなわさんが悔しそうにこぶしを握って、くそっと近くにあった木の幹を殴りつけたのを見ながら、しいなは悲しそうに目を伏せた。

「あたしが憎くてもいい。恨んでいてもいい。だから……」
「両親の仇のお前に……情けをかけられるとはな……俺もとことんまで落ちたもんだ」
「それでも……死ぬよりはましだ」
「……死ぬよりも苦しい生もある」
「それは違う。死と生は同じ次元の話じゃないんだ。生きることには意味があって、死ぬことに意味はない。それだけでも比べられるものじゃない」

絞り出すようなくちなわさんの言葉に、ロイドは即座に首を横に振る。
だが、その眩しいばかりにまっすぐな言葉は、かえってくちなわさんを苛立たせたのだろう。ギッとロイドを睨みつける目は遠くから見ていても恐ろしいと思ってしまうほどの怒りに満ちていたけれど、ロイドは決して怯んだりしなかった。

「……死ぬことに意味がない……だと?」
「うまく言えないけど、人は……誰かの生きてきた姿を尊敬するから、その誰かが死んだとき悲しむんだ」
「ああそうさ。だから死ぬことに意味はない。生きてきた人生に意味があるんだ。だから……生きなきゃだめだ」

まっすぐに。くちなわさんを見つめる二人に、彼が息を飲む音がする。
生きてほしいと。死ぬなと。たった今、刃を交えた相手に本気でそう訴える彼らに、いろんな感情が湧き上がってきているのだろう。
ふざけるなと思っているかもしれない。綺麗ごとをと憤っているかもしれない。いっそ感動するよとでも呆れているかもしれない。その感情の名前は他人であるわたしにはわからなかったけれど、その言葉が心からのものであることは、ちゃんと届いたのだろう。
届いてしまった、のだろう。だから彼は、声をこれ以上荒げない。二人の視線から逃げようとしない。代わりにただ静かに、問いかける。

「……俺に生きる意味はあるのか?」
「そのままで、ただそこにいて生きているだけで、意味はあると思う」

そうか、と。彼が返した言葉はそれだけだ。
くちなわさんはゆっくりと立ち上がって、背中を向けて。なんて甘い奴らだ、と呟いた。

「いつか……そう思えた時、お前を許せるようになるのかもしれない」
「……うん……」
「しいな。お前に渡したお守りは、もう用済みだ。壊すなり捨てるなり、お前の好きにすればいい」
「いや……あたしはこれを持っていくよ。事故とはいえ、あたしの未熟さであんたの両親を巻き込んじまった。そのことを忘れないためにも、自分の力不足を戒めるためにも、このお守りは持っていくよ」

ある意味、くちなわさんなりの激励だっただろうに。
自分が渡したものは全部放り投げて、捨て置いて、さっさと前へ進めと、負けた自分ができる最後のことだっただろうに。
しいなは首を横に振って、捨てていかないよとお守りを握りしめる。手放してなるものかと、忘れてなるものかと。戦って……前を見て。全部を手に持って、何一つ忘れることなく進んでいくと、彼をまっすぐに見つめる。

「くちなわは心に大きな傷を負った。……わかるんだ。あたしだってコリンを失ったから。でもね、あたしはコリンの分まで生きて……これからも、コリンと一緒に生きていく」

ぎゅ、っと。思わず胸元を握りしめた。
まだ、そこにかかったままのペンダントを握りこんだ。
……心に、傷を負っても。
足をくじいても。泣いても。逃げても。失っても。
それでも最後には立ち上がって、戦って……これまで泣いたことも全部持って、失ったものと一緒に、生きていく。

「……お前たちの言葉が……真実かどうか、俺はいつまでも見ている。俺を裏切るなよ」

静かなくちなわさんの声に、力強くうなずくしいなは、やっぱりとってもかっこよくて。きっと彼女はちゃんと、生きていけるって、思って。
わたし、なんだかすごく。
すごく……泣いてしまいそうだった。