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思い返してみれば、わたしの知らない四千年の間に二人が死んでしまったと思っていた時は、ちゃんと、彼らの思い出を胸に生きていけた気がする。
悲しいけれど。寂しいけれど。彼らにもらった言葉を胸にしまって、奮い立たせて。怖がる気持ちも全部押し込めて、今からでも果たせる約束を果たしたいと、ちゃんと前を向いて走って行けた気がする。
それが急にできなくなってしまったのは、彼らが目の前でいなくなってしまったからなのだろうか。目の前で、満足に戦うこともできず、言葉もきちんと交わせず……胸にしまっておくにはあまりに中途半端にあがいてから回った記憶が、うつむかせているのだろうか。
それなら、わたし、わたしは……ちゃんと。
これから、この思い出と共に、ちゃんと生きて、いけるのだろうか。


「待ってたぜ、ハニー」

ミズホの里に戻って、決闘の報告をした後。そのまま里にいるのは少し心苦しい、というしいなの意見を聞いて、わたしたちはほど近い場所にあって賑やかなメルトキオへと移動した。
賑やかな町というのは、それを眺めるだけでも気分転換になる。静かなところにいるのもいいけれど、誰かの音がする場所で、まだ世界から切り離されてしまったわけではないのだと再認識できる方が……たぶん、ずっと、気分が晴れると、そう判断したのも、ここを選んだ理由の一つだった。

それに、ここにある闘技場でちょっと腕試しをしてみたい、とロイドも言っていたし。いろんな理由を積み重ねてここに来て……まあ、一応。ここには彼の家もあるので、戻ってきている可能性もあるな〜と、考えなかったわけではない、のだけれど。
まさか本当に、闘技場の受付に、わたしたちを待っていたというゼロスくんとコレットの二人に会えるとは思わなかった。

「ゼロス、コレット。どうしてここに?」
「ゼロスが闘技場に参加するっていうから、応援してたの。すごいんだよ。もう次、一番難しいクラスでの戦いなの!」

どんどん勝ち進んでいって、すごかったんだよ、と笑顔で教えてくれるコレットの隣で、ゼロスくんがいやいやそれほどでも、なんてわざとらしく髪をかき上げて見せる。
まあ、この旅でみんな強くなったし、闘技場の腕自慢の人達にだって引けを取らないだろう。へーすごいね、とは言うけれど、でもまあ彼なら当然かな、みたいな気もしてそんなに盛り上がりはしない。

というよりも。その報告よりも気になってしまうものがあるのだ。いつもと同じようで、なんか違う服に、腕に抱えた大きな帽子。コレットに至っては普段のそれと全然違う、エプロンの可愛らしいお洋服。
……そう、お洋服。二人ともいつもとは違う服をしていることの方が、ものすごく気になった。

「……その格好は?」
「んん〜? いやほら、俺さまって人気者だからさあ。このまま出て行ったら大変だろ? だからこうして……噂の覆面美青年剣士ってことさ」
「私は覆面美青年剣士さんに仕える、特急ウェイトレスさんだよ〜」

じゃじゃーん、なんて言いながら二人してポーズをとる様子はなんだか兄妹みたいで微笑ましい。可愛いなあ、と思うけれど、同時に何をしているんだという気持ちにもなってしまって、わたしたちはそろって苦笑を浮かべた。

「まーたアホなことやってる」
「なんでメイドじゃなくてウェイトレス?」
「だいたい、覆面してるのにどうして美青年だってわかるんだよ」
「それはお前、オーラが違うだろうが」

ウェイトレスなのはただのメイド服ではつまらないからとのことらしい。なるほど。まあ、ゼロスくんって一応上流貴族というものだし、メイドさんは見慣れているのかもしれない。コレットのメイド服、絶対に可愛いから見てみたかったな。もちろん、ウェイトレスなコレットもすごく可愛いんだけど。やっぱりメイド、憧れがある。
というか、確かに明後日まで自由行動、と言って別れたわけだけれど。わざわざ衣装を着替えてまで自由時間を満喫しているとは思わなかった。
神子さまたちは思った以上に自由にやっているらしい。うん、楽しそうだし可愛いし、いいこと、だね。

「ナギサ」

なんだかんだ覆面ってかっこよくていいなと言うロイドにゼロスくんが絡んで、しいなが呆れて、と非常に見慣れた光景が繰り広げられている中、くい、とコレットがわたしの袖を引いた。
何か話したいことがあるのかな、と首を傾げて彼女に視線を合わせると、コレットはこそこそと内緒話をするように声を潜めた。

「あのね。……マーテルさんの意識が入ってきたとき、あの人の心が、私にも見えたの」

こそ、と潜められた声から飛び出してきた名前に、ぴくりと思わず肩が跳ねる。
そんなわかりやすく動揺するつもりはなかったけれど、マーテルさんの話だとは思わなかったから、見事に動揺してしまった。
ちょっと気まずくなって目をそらしてしまうと、コレットはぎゅ、とわたしの手を握る。怖い話じゃないよって、優しく笑って。聞いてほしいの、と言葉を続ける。

「たくさんの人に傷つけられて、裏切られて、胸の中は悲しみでいっぱいだったけど……世界を心から愛していた、すごい人だった。ナギサと出会えたこの世界が大好きだって……そう思っているのが、伝わってきたんだよ」

……知ってる。マーテルさんは、この世界を本当に愛していた。
つらくても、苦しくても、優しさを忘れずに笑っている人で、いつも素敵なものを見つけてはほほ笑んで。
コレットの体を使って復活した時だって、そうだった。わたしのことを大好きだって、そう言って笑ってくれるような、そんな人だ。

「ごめんね。これだけはどうしても伝えなきゃって思ったの。マーテルさんは、ナギサのことが本当に大好きだったから」

少しでも笑ってほしくて、と眉を下げるコレットに、わたしはありがと、と答える。
マーテルさんとは違う、コレットの優しさが。彼女の言葉を教えてくれる、コレットの素敵な気持ちが……本当に、嬉しかったから。