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「応援ありがと〜! サインはあとで順番にね〜」

わあっと盛り上がる歓声を浴びながら、闘技場のフィールドに立って手を振るゼロスくんに、なんとなくノリで手を振ってみる。気分はアイドルの応援に来たファンだ。まあ、闘技場のスターということで、あまり変わりはないのかもしれない。
予想通りというかなんというか。あの後闘技場の最高ランクに出場した謎の覆面美青年剣士ことゼロスくんは、とんとん拍子に勝ち進み、たった今優勝を果たして見せたところだ。
相手の人達も強かったけれど、さすがに世界中をめぐって旅をするゼロスくんに比べればまだまだ甘い。もしかしたらわたしもある程度なら勝ち進められるかも……なんて、それはさすがに調子に乗りすぎか。

とにかく、ゼロスくんの闘技場チャレンジはこれにて終了だ。
次は俺も出たい、と言うロイドに今度は真面目に申請しなくちゃね、と言いながら観客席から離れようとした、その時だ。

「しばしお待ちください! 神子さまのお相手はセレスさまでございます!」

そんな大声が響いたかと思うと、ゼロスくんの前に二人の人影が近付いてくる。
ここからは少し遠くてよく見えないけれど……燕尾服を着た男の人と、大きな帽子をかぶった女の子であることは、ここからでもちゃんと見える。
帽子の下に見える赤い髪の毛。見覚えがある。……ということは、今の名乗りは、本当、なのだろうか?

「えっ、あれ、本当にセレスちゃん?」
「へえ。闘技場に乱入参加とは、これまた派手なことするねえ」

隣にいたコレットに確認すれば、「セレスさん、緊張してるみたいだねえ」とこれまたのんきな返事が返ってくる。
どうして彼女がという会話がしたくてしいなの方を振り返るけれど、彼女は盛り上がって来たね、とばかりに手を叩きながら座り直していて、すっかり観戦モードだ。ロイドも同じ。セレスって強いって話を聞いたよな、なんてわくわくしながら見ている。

……い、いいのかな。乱入というかたちになってるのもそうだけど、そもそもセレスちゃんって、体が弱いんじゃなかったっけ?
ざわつく観客席の雰囲気は、さすがに戦闘を見に来た人たちばかりだから、乱入というハプニングをイベントとしてとらえている人が多いようで、ブーイングのようなものは聞こえてこない。せいぜい、ゼロスくんがびっくりした顔で口を開けているくらいだろうか。覆面してるから、そこしか見えないとも言うのだけれど。

「お兄……神子さま……私は……私は……神子さまと……」
「おいおいおい。俺さまが妹相手に本気で戦えるかっつーの」
「……お黙りなさい! 私が真に神子としてふさわしいところをお見せしますわ!」

さすがに、注目を浴びてすくんでいるのか、ぼそぼそと何かをつぶやくセレスちゃんだったけれど、ゼロスくんの言葉に何かを決意したようだ。
ぐっと帽子を深く被り直すと、そう高らかに宣言して、一気に後ろへ跳んだ。

「フリーズランサー!」
「おっと!」

どうやら、セレスちゃんもゼロスくんと同じで魔法を使うことができるらしい。
短い詠唱で放たれた氷を避けた兄に、妹は今度は一気に距離を詰めてきたかと思うと、持っていたカバンを大きく振り下ろした。

「プチメテオ!」

これも、ゼロスくんはなんとか避けたけれど……正直、すごい威力だ。地面が軽くえぐれているのが観客席からもよく見えて、その威力と容赦のなさに再び会場が湧き上がる。
文武両道、とは聞いたけれど。あれが病弱だと言われた女の子の出せるパワーなのだろうか。当然、エクスフィアは着けているんだろうけれど……改めてとんでもないな。

「仕方ねえな……俺さまの本気、見せてやるよ」

思わず頬を引き攣らせてしまったわたしの耳に、ゼロスくんのそんなつぶやきが聞こえてくる。
先ほどからセレスちゃんの攻撃をいなすばかりだった彼は軽やかに地面に足を着けて、すっと両手を前に出して。そうして、ふわりと。彼を中心にして広がる光に、観客席がざわついた。
……美しいと、思ったのだ。その光が。何かを祝福するように零れ出る光が、まるで羽のようにあたりに散って、舞って、その背中に集まるのが。まるで天使の翼がそこに現れるようで……って、え、羽?
思わず何度も瞬きをして彼の背中を見れば、ほんの少しの間だけだけれど、確かにオレンジ色の羽のような光が見える。コレットたちと色違いのそれだ。間違いない。詠唱が終わったせいか、すぐに姿を消したけれど、今、間違いなく羽があった。
確かに彼も神子だけど、儀式とかもしてないのに羽、出るの?

「ディバイン・ジャッジメント!」

そんな疑問など振り切るように、彼の足元から幾重もの光が伸びて、セレスちゃんを貫いていく。
天使術によく似た光のそれに、彼女はぐらりと大きく体をよろめかせて、やがて膝をついた。

「おにい……さま……そんな……私が負けるなんて……」
「セレスさま! これは何かの間違いでございます!」
「……いいのです、トクナガ。私の……力不足ですわ……」

駆け寄ってきた執事の……たぶんトクナガさん、にセレスちゃんはそう答える。
その言葉が戦闘終了の合図となったのだろう。勝敗が決まったことで再び歓声に満ちる闘技場の中を、一人の兵士が駆けていくのが見えた。
まっすぐ二人へと向かう兵士は、たぶん、乱入という形で割り込んできた二人を捕まえに来たのだろう。捕まってもいいのかな、神子の妹なのに、と勝手に慌ててしまうけれど、二人は特に抵抗する様子はない。

「勝手に乱入してきたのはお前たちか! さあ、こっちへ来なさい!」
「ストーップ」

とはいえ、セレスちゃんの腕を兵士が掴んだところで、ゼロスくんが観客へのファンサービスを止めて兵士を手で制する。
彼はなるべく優しい手つきで彼女から腕を離させると、話はとりあえずあっちで、と兵士とトクナガさんの背中を押した。

「可愛い妹をこのまま連れてはいかせないぜ」

たぶん、場所を変えて事情を聞くつもりなのだろう。わたしたちも顔を見合わせると、セレスちゃんの事情を聞くために、これからゼロスくんが向かうだろう控室へと走り出した。