「セレスちゃんが出て来たのはびっくりしたけど、いろいろ綺麗にまとまってよかったね」
「そだね。仲直りも出来たもんね」
「んあ? まあ、まあな」
帰っていくセレスちゃんを見送ったのは、次に闘技場に参加すると言うロイドとしいな以外の三人だ。それは兄妹の邪魔をしないように、という気遣いでもあった。完全に二人きりにするにはまだ照れくさそうだし、と一緒にコレットとわたしも見送ったのだけれど……彼女たちの姿が見えなくなったところで呟いた言葉に、ゼロスくんは歯切れ悪く反応する。
どうしたのだろう。ここまでも無事に移動して来れたし、今回はちゃんと護衛も呼んで見送ったのに、他にも心配なことがあるのだろうか。
「どしたの、ゼロス」
「いや……いや、未練ができちまったなーって思ってよ。わざわざ変装までしてたってのに仕掛けてきて。そんなに俺が好きかっつーの」
愛されて困っちまうな、と茶化すように肩をすくめるゼロスくんはけれどとても嬉しそうだ。
たぶん、すれ違っていただけだと知ることができて嬉しい気持ちと、ちょっと照れくさい気持ちと。いろんなものが彼の中を満たしているのだろう。
戦って。向き合って。そうして得た「未練」という言葉に、わたしは自然と頬が緩んだ。
「未練が出来るって、いいことだよ」
「へ?」
「それだけ、ちゃんと生きたってことなんだから」
心残りがある、と言うと後ろ向きな気がするけれど、それだけ大切なものがあって、やりたいことがあるって、素敵なことだ。何より、未練があれば、もう少し生きようって思う理由にもなれると思うから。
……なんて、羽が見えたせいでそんなことを考えてしまうのかも。あの光のような羽を生やした人たち、だいたい、未練なくわたしたちの隣から去っていくイメージがあるから。未練でもなんでも、ここに留まる理由があるのなら、よかったって思うのだ。
「そうだよゼロス。ちゃんと、ゼロスも生きてたんだよ」
コレットも、その気持ちがわかってくれたのかもしれない。そうだね、と笑う彼女は、私も今、したいことがたくさんあるんだ、と笑ってわたしとゼロスくんの手を握る。
わたしたちに挟まれて、笑って。優しく彼を見上げれば、ゼロスくんもふっと笑った。
「……二人には適わねえなぁ。だーいじょぶよコレットちゃん、ナギサちゃん。俺さまは、大丈夫だ」
だから二人の応援に行こうぜ、と手を引いてゼロスくんに続いて、わたしたちも再び闘技場へと戻る。
三人で並んで歩くの、ちょっと邪魔かもなあと思いながら、誰も手を離さない。それがちょっと面白くて笑ってしまいながら……わたしは、ちょっとだけ。いいなあって、思った。
二人は、戦うことで、ちゃんと向き合ったのだ。
戦えばすべてが綺麗に解決するわけじゃない。でも、きっかけにはなる。手を取れなくても。隣にいなくても。何かを得て、現状を変えて、前に進む機会を与えてくれるのだと、証明をした。それがうらやましい。
わたしだって、この旅で何度も戦って、前に進んできたと思う。
この、たくさんの素敵な仲間に囲まれた、この場所にいるわたしは。みんなと戦って、旅をしてきたわたしは。最初の、違う世界に迷い込んでしまった時から変わりたいって思って、頑張り続けたわたしは、ちゃんと自分でここまで来たって、胸を張って言えるのに。
言えるはず、なのに。
ちゃんと、ミトスくんと戦えなかったわたしは、もう、わからない。
大好きな人の手を取れなかった。隣にはいない。失ったことはたくさんあるし、今もまだ、悩んでいることがたくさんある。とても前に進めているとは思えない。無理やり足を動かしているだけだって思ってしまう。
最初に、戦いたくないって泣いたのが……いけなかったのかな。だから、その機会を失ってしまったのかな。
……だからわたしは、君の未練になれなかったのかな。