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「今のお前らに足りないのは……心の余裕! リラックス! 療養! つまり……温泉だ! この俺さまが、超おすすめ有名温泉スポットへ連れていってしんぜよ〜う!」

ででん! と自分で効果音を口にしながらゼロスくんが連れてきてくれたのは、救いの小屋がある孤島だ。
闘技場で思う存分に腕試しをした翌日。明日の集合時間まで何をして過ごそうかと思っているわたしたちを連れてきたその場所は、なんでも温泉を楽しむことのできる救いの小屋、ということでそれなりに人気の場所らしい。

温泉。なんだか存在を聞くのは久しぶりだ。もともと温泉旅行なんてそんなに行かなかったし、シルヴァラントでは旅行自体したことなかったし。温泉のある観光地なんてなかったから、存在自体がないのかな、と思っていたくらいである。
もちろん、お風呂の文化はここにも存在している。外でお湯を炊いて、という歴史の教科書でしか見たことがないものが当たり前だったから、露天風呂のありがたみは薄いけれど……でも、足を延ばせるような大きなお風呂、と考えると、やっぱり温泉、すごく魅力的かも。

……まあ、工事中、の看板がなければ、の話なのだけれど。

「でも、今工事中だって書いてあるよ」
「あれ? おっかしーな……」
「ねえ」

あれって、とコレットに裾を引かれて視線を向けると、救いの小屋に何かを運び込む二つの影が見える。
とても大きいそれと、とても小さいそれ。見覚えがある。……リーガルさんとプレセアちゃんだ。その後ろには、荷物を運び込む二人を眺めるタバサちゃんの姿まである。

「あれ? リーガルさんとプレセアちゃん? しかも、タバサちゃんまで?」
「どうして三人がここにいるんだ? タバサも治ったのか?」

みんなで首を傾げて、三人がいる救いの小屋の入り口まで近付くと、向こうもこちらに気付いてくれたらしい。みんなの名前を呼ぶプレセアちゃんに手を振りながら問いかけると、タバサちゃんが「……はい」と小さく答えた。
あれ、と。その返事に、何かが引っかかって首を傾げる。なんだろう。でもこの違和感の正体を考えるより先に、話の続きが始まってしまって、わたしは一度考えることを保留した。

「タバサさんと一緒にトイズバレー鉱山へ行く途中だったんです。そこで……」
「途中で、ずいぶんと大荷物の御仁がいたのでな。我々は力には自信があるからと、手伝っていた」
「本当に助かりました。おかげで、温泉の改装作業も無事に終わります」

なるほど。彼らがここにいるのは人助けの結果、ということのようだ。
二時間後くらいには温泉に入れるようになりますよ、とにこやかに答える祭司さんに、それじゃあそれまでゆっくり待とうぜ、とゼロスくんがロイドの肩に腕をまわす。
のんびり過ごすのは久しぶりだ、とコレットやしいなも温泉を楽しみにしているようだし、このまま開通するまでここで待つことになるだろう。

わたしもそれでいいけど……なんとなく、タバサちゃんのことが気になる。何が気になるのかは、全然わからないんだけど。とりあえず、この不思議な気持ちをどうにかしたくて、わたしは三人の行先であるトイズバレー鉱山について問いかけた。

「トイズバレー鉱山へは、何を?」
「エクスフィアが病気になると……聞いて……」

どうやらこの自由時間の間にオゼットに向かった二人は、そこでタバサちゃんと、彼女が持つ「病気になったエクスフィア」に出会ったらしい。
エクスフィアが病気に、と首を傾げると、要はエクスフィア自体に異常があって、機械の取り付けなどに使用できない、一般的には不良品と呼ばれるものだ、と説明された。

「機械に取り付けられるエクスフィアの中には、時々異常が発生する。大半は捨ててしまうのだが……タバサが、彼らも生きているから、病気になってかわいそうだと話していてな」
「そっか。無機生命体って、生き物ってことだもんね」
「でも、みんな、この小さな石のためにつらい思いをしています。彼らを目覚めさせるために、たくさんの命が亡くなっています。それなのに……」

それなのに、かわいそう、だなんて。
そうつぶやくプレセアちゃんに、かける言葉は見つからない。
わたしたちはエクスフィアに助けられてきた。けれど、エクスフィアによってたくさんの命が奪われてしまったことも知っている。エクスフィアに命を吸い取られてしまう人が、この石のために命を落とす人がこれ以上増えないように……そんな願いもこの旅の理由のひとつだ。だから、彼女の気持ちも、よくわかる。

わたしも……エクスフィアがかわいそうって気持ちは、わからないかな。
でも、エクスフィアも生きているというのは、一応知識としては理解している。無機生命体だって、生き物だ。命がある美しい石。でも会話も交わせなければ、要の紋がなければ体に毒でしかないし、死んでも意識がこの石の中に閉じ込められてしまうとか、これまで見てきたことを思うと、あまりいい気はしない。

正直なこの気持ちに近いものをプレセアちゃんも感じて、それをタバサちゃんは少し悲しいと思ったのだろう。だからエクスフィアが眠っている鉱山に一緒に来てほしい、と誘ったのだ。
あそこは現在、レザレノ・カンパニーの正式な管理下におかれているとのことで、責任者であるリーガルさんも連れて、鉱山に向かう途中で……というのが、ここまでの彼らのあらすじのようだ。

「ナギサ……さんも、エクスフィアの声が聞こえる場所まで、一緒に来てくれませんか」
「わたしも?」

誘われるとは思ってなくて、驚いたわたしをタバサちゃんがじっと見つめる。
……なんだろう、やっぱりちょっと様子が違う気がする。いや、彼女がわたしを誘ってくれることは、そんなにおかしなことじゃないはずなのに。
なんだろう。何が違うんだろう。何か。何かが違う気がして、でもうまく言えなくて。わたしは言葉に詰まってしまう。

これは、きっとエクスフィアの声が聞こえる、なんて体験が信じられないからだとか。彼女がまだ治してもらったばかりで本調子じゃないのかもしれないからとか。いろんな理由をつけて、わたしはひとまず、なんでもない、とその疑問を押し込めて。
でも、気になる気持ちも変わらなくて……ロイドたちに声をかけてから、わたしも彼らについていくことにした。