問題なくテセアラに移動することができて一安心しながらアルテスタさんのところへ訪れると、家の前に大きな岩が落ちていることに気付いた。
幸い、それが何かを踏みつぶしてはいないようだけれど、とにかく大きいので目立つ。たぶん、小さかったロイドのためにいろいろと整備したのだろうダイクさんの家と違って、自然のままって感じが強いから、何かの拍子で落石が起きたのだろう。
誰も怪我はしなかっただろうか。そう心配しながら中に入ると、わたしたちに気付いたアルテスタさんが駆けつけてきた。
「お前さんたち! お前さんたちがこうしてテセアラに戻ってきたということは、世界は……」
「……実は」
アルテスタさんにこれまであったことの説明をする声を聞きながら、きょろりとわたしはミトスとタバサちゃんを視線で探す。
駆けつけてくるくらいだ、アルテスタさんにあの落石による怪我は無いのだろう。残る二人も大丈夫だっただろうか、と一目確認したいのと、ちゃんと「まだ世界が繋がっていたら絶対に会いに来るよ」の約束を果たしたことを報告したいのと。
とにかくさまざまな理由で彼らを探していると、どこか気まずそうに壁の影に隠れているミトスが見えた。その隣にはタバサちゃんもいて、彼のことを気にしているのが見える。
どうしたのだろうと首を傾げていると、そのタイミングで話を聞き終えたアルテスタさんがなるほどな、と顎を撫でた。
「そうか……それで先日の大地震というわけか」
「そっか。こっちでは地震くらいは起きているだろうって言ってたもんね。大丈夫でしたか?」
「他の地方は大したことはないようじゃ。ただ……」
「この辺りでは崩落や土砂崩れがありまシた。それでミトスサんが……」
「……あれ! ミトス、どうしたの? 怪我してるじゃない!」
影に隠れてはいるけれど、ジーニアスからは彼のことがよく見えるらしい。
彼に呼ばれて少しだけ顔を出した彼は、確かにその腕に包帯を巻きつけていた。
「あ……これは……もうたいしたことないから……」
「……大したことないのに、隠れてるの?」
じと、とわたしとジーニアスで彼の言葉を待てば、やがて降参だとばかりに頭を振ってわたしたちの方へと歩いてくる。
もう治療したから見た目ほど大げさじゃないよと彼は言うけれど、腕と、それからわき腹にも包帯を巻いているらしい。わき腹の方は服で見えないのだけれど、タバサちゃんが細かく説明してくれた。
さすがに、ミトスもそこまで説明されて、苦笑しているけれど。でも心配そうにするタバサちゃんを無下にできないのか、黙ったままの彼の代わりに何があったのだと聞けば、彼女は眉尻を下げた。
「外の岩をご覧になりまシたか? 先日大地震があって、ソの時あの岩が私の方へ落ちてきたんでス。危ないところだったのでスが、ミトスサんが助けてくれて、代わりに怪我をサれて……」
……タバサちゃん、やっぱり、マーテルさんに似てるから。二人がこうして並んでいると、あの日仲良しだった二人を思い出してしまうな、とこっそりと思って。
でもここにいるのは、タバサちゃんとミトスだから、関係ない。そう首を振ってから、大怪我にはならなくてよかったよ、と息を吐いた。
「そうだったの……でも無事でよかったわ」
「ああ。それにタバサを護るなんて、しっかりしてるぜ、ミトス。俺たちを助けてくれたことといい、お前、本当にいいやつなんだな」
「……そんなこと……ないよ……」
「そんなことあるって。すごいね、ミトス」
「ボク、ミトスのこと大好きだよ!」
「……ありがとう」
ミトスの頭を撫でてやれば、彼は照れくさそうにはにかむ。
その笑顔を見ると、なんだか胸の内側がふわふわするような気がした。
「……いいやつか……」
ぽそりと、後ろでゼロスくんが何かを呟いた気がしたけれど、小さすぎてよく聞こえない。どうしたの、と聞こうと思ったけれど、それより先にアルテスタさんがコレットの症状について心当たりがある、と話し出したので、今はそちらを優先することにした。
ミトスから手を離してアルテスタさんに向き直れば、知識として知っているだけで詳しいことはわからないのだが、と前置きをしたうえで、彼はその病名を口にする。
「コレットの病じゃが、おそらく永続天使性無機結晶症じゃろう」
「えいぞくてんし……?」
「百万人に一人という、輝石の拒絶反応じゃ。しかし、治療法ははるか昔に失われたと聞いておる。古代大戦時代の資料を見れば、あるいは……」
ロイドがクラトスさんに伝えたアドバイス通りだ。
「やっぱり古代大戦か……古代大戦の資料って、どこを探せばいいんだ……」
「確かサイバックにミトスの足跡を中心にした資料館があったな」
「ああ〜……そういや、そんなとこあったなあ……」
以前にサイバックに行った時、確かに勇者ミトスの資料館があった。そこで、かねてからずっと読みたいと思っていた勇者ミトスと異世界の女性の話を見て、彼がミトスくんだと改めて再認識して喜んだものだけど……あそこ、いろいろとありすぎて逆にどこに何があるのか、全然わからなかった思い出もある。
歴史の棚しか詳しくは見てないけど、どちらかというとミトスくんのことがメインで古代大戦のことはそんなにまとまっていなかったような気もするし、そういった医療関係のものってどこにあるのかさっぱりわからない。
「確かにいっぱいあったけど、いっぱいありすぎてなんかよくわかんなかったよ。伝記はこの間見たけど……」
「そうだね……そうみたい。ボク……知ってるよ、そこ。棚の配置とかも、なんとなくだけど覚えてる」
「資料館……ね。役に立つのかしら……」
「ボクでよければ、案内するよ」
たぶん、ミトスの仲間関連は歴史とは別のところにまとまってるよ、と一言添えてミトスが手を挙げる。
司書ほどじゃなくても案内できると思う、と言う彼に、真っ先に反応したのはジーニアスだ。嬉しそうに同意する彼は、明らかに違う目的な気がするけれど、嬉しそうな彼を見てコレットも嬉しそうに笑っているので、みんなも緩やかな空気だ。
「うん! そうしてもらおうよ!」
「お前、ミトスと一緒にいたいだけだろ」
「へへー」
「まあ、資料館なら安全かな。いいぜ、一緒に行こう」