「約束、守れたでしょ?」
サイバックの資料館への移動の最中、ミトスにそう笑いかければ、ミトスはほわりと表情を緩めた。
「うん。そうだね。ちゃんと会いに来てくれて、うれしい」
みんなも一緒だから、もっと嬉しいよ、とはにかむ彼が可愛らしくて、わたしはその頭をくしゃくしゃと撫でる。子供扱いみたいで申し訳ないけれど、許してほしい。なんというか、やっぱりわたしは、彼が笑ってくれるととても嬉しいのだ。
こんなに懐いてもらえてよかったなあ、と思いつつ、ちらりと後ろにいるジーニアスへと視線を向ける。こちらの様子をうかがっていた彼は、わたしの言いたいこともわかってくれたのだろう。こくんとうなずくと、小走りにこちらに近付いてきて、あのね、と懐からそれを取り出した。
「ミトス、これ……」
「これは……?」
ジーニアスがミトスに差し出したのは、翠色の布で作られた巾着だ。
しっかりと彼の手のひらに乗せたから、中に何かが入っていることくらいはわかるだろう。開けていいかとジーニアスに問いかけてから彼がその袋を開けば、中から出てきたのは契約の前にアスカを呼んだあの笛だ。
彼が首を傾げたのを見て、ロイドもこちらへと近付いてきた。
「リンカの実で作った笛だよ」
「よかったら、これをミトスももらってほしいんだ」
「え、でも……」
突然あげる、と言われても、ミトスも困惑しているのだろう。
どうして、と困ったようにジーニアスとロイドを見て、わたしに説明を求めるようにすがってくる視線にちょっとだけ苦笑する。でも、わたしが説明するよりも、これを提案したジーニアスから説明した方がいいだろうし、と彼の背中を叩けば、ジーニアスはあのね、と笛と袋ごとミトスの手を握った。
「ボクたち、キミに助けてもらったんだ。でも……」
「俺たちのせいで、ミトスの姉さんの形見、壊れちまっただろ。代わりになんてならないのはわかってるし……」
「お姉さんの笛とは違うかもしれないけど……それでも、キミにもらってほしいんだ」
「……ううん、ありがとう!」
ぎゅ、とジーニアスの手を握り返して、ミトスは頬を赤らめる。本当に嬉しいのだろう。きらきらと輝いて見えるその瞳は、少し泣きそうになっているのかもしれない。
この前お守りを渡した時も思ったけれど、彼はこうして、誰かに自分だけに贈り物をしてもらうのが好きなのかもしれない。こんなに喜んでもらえると、こちらも嬉しい。
思わず三人で顔を見合わせて笑顔を浮かべると、ミトスは笛が入っていた袋をそっと掲げた。
「これももらっていいの?」
「うん。……えっと、その、ちゃんとできてると思うんだけど……」
「! ……ナギサが作ってくれたの?」
ぱっとこちらを振り向いて問いかけるミトスに、ちょっと照れくさく思いながらもうなずく。
ジーニアスに頼まれてから今日まであまり時間がなかったし、最後の仕上げまで終わったのは昨日の……家でゆっくり過ごした日の夜だから、かなり超特急で作ったものだ。刺繍を入れたわけでもないし、特別難しい型でもないから、おかしいところはないはずだけど。やはり贈るとなると、問題はなかったかなと直前で不安になってしまう。
でも、ミトスが嬉しそうに笛ごと袋を抱きしめるから。そんな不安はさっさと散って行ってしまった。
「ありがとう。本当にうれしいよ。みんなの気持ちがすごくうれしい。だって、リンカの木はもう絶滅しちゃってるはずなのに……」
「ミトスって本当に物知りだな。リンカの木のことまで知ってるんだもんな」
「ホントだよね。ロイドの代わりに一緒に来てくれればいいのに」
「……おい、それはどーゆー意味だ」
ジーニアスのからかう言葉に、ロイドもわざとらしく膨れてみせる。
もうおなじみのそのやり取りに、ミトスもふはっと噴き出すと、楽しそうに笑った。
「あはははは。ボク、協力できることがあったら何でもするよ。いつでも声をかけて」
「おう」
「ありがとう、ミトス!」