「ここですか……?」
「はい。……エクスフィアたちのささやきが聞こえます」
鉱山の奥、橋のかかった場所で、タバサちゃんが立ち止まる。
エクスフィアのささやきとやらはよくわからないが、ここで耳を澄ますと何か音が聞こえてきた李留守のだろうか。そう思って三人で耳をすましてみるけれど……うーん、何も聞こえない。後ろの方に流れる水の音くらいだ。
わたしの耳が悪いのかなとも思ったけれど、プレセアちゃんも首を振って項垂れるので、やっぱり何も聞こえていないのだと思う。
「……何も聞こえません」
「静かに。……声が聞こえてきます」
タバサちゃんにもう一度そう言われて、わたしたちは再び黙り込む。今度は目も閉じて、息も潜めて……ふと。急に、音がなくなった気がした。
静かだ。みんなが息をひそめているからだろうか。
水の音も遠くなった気がする。かちりと何かが擦れるような音がする。何かはわからない。ぼんやりと、錯覚のように感じる小さな音。
……これが、エクスフィアの声、なのだろうか。
わかるような、わからないような。なんとももどかしい何かを感じていれば、静かにプレセアちゃんに語り掛けるタバサちゃんの声が聞こえてきた。
「エクスフィアは……私と同じです。同じ無機物ですから」
「タバサさんとエクスフィアが同じ?」
「エクスフィアにも感情があります。彼らはとても寂しがり屋です。だから、いつも誰かと一緒になろうとしている。彼らの寂しさが……人の命を吸い取ってしまうの。……です」
タバサちゃんの言葉に、プレセアちゃんが息を飲むのがわかる。
わたしの耳に届くのは二人の声だけで、目をつむっている今も、まだエクスフィアの声はよく届いていないけれど。だからこそ、二人の静かで、寂しそうで、けれど温度を持った人の声がよく聞こえた。
「……寂しい……エクスフィアも、私と同じように寂しいんですね」
「はい。そして、今のプレセアさんのように、仲間を探しているんです」
「……そうだな。彼らを勝手なことに利用しているのは、我ら人間だ。静かに眠る彼らを無理に起こし、その寂しさを利用する……彼らをより孤独にしているのは、我らなのかもしれぬ」
「彼らが皆さんを苦しめているのはわかります。でもどうか、彼らを恨まないであげて。エクスフィアも……生きています」
「……そう……ですね……私、考えてみます。寂しいということ……憎むということ……」
タバサちゃんとリーガルさんが静かにささやく言葉に、プレセアちゃんは身じろぐ音がする。
きっと、胸に手を当てているのだろう。彼女は静かに自分の内側を考える時、よくそうしているみたいだったから。
きっと、静かに。プレセアちゃんは、考えている。エクスフィアのこと、寂しいということ、憎むということ。考えることはたくさんあって、立ち止まる事も多くて。それでも、ちゃんと自分で歩くために。ちゃんと、考えているのだ。
「……タバサちゃん」
ゆっくりと目を開けば、そこにあるのはやっぱり、ちょっと薄暗い鉱山だ。世界が急に変わるわけでも、周りにいたみんなが変わるわけじゃない。
その中で、わたしはどうしてか彼女の名前を呼んでいた。静かな語り口調に、静かな声に、とても懐かしくなってしまって。タバサちゃんと見た目がそっくりなのは知っていたけれど、こんなに声までマーテルさんに似ていたかな、なんて思いながら、タバサちゃんを見る。
「あなたは……」
何を聞こうとしているのだろう。何が聞きたいのだろう。
わからないけれど、わたしは今目の前にいるタバサちゃんに、すごく、何かが聞きたくて。何かを聞いて、安心したくて、たまらなくて。でもその感情の理由も、目的もわからなくて。
ただ、問いかけようとしたことを止めることはできなくて……いつか、夢の中で見た、マーテルさんを思い出しながら。静かにほほ笑むタバサちゃんに問いかけた。
「あなたは……この世界が、好き?」
そっと、胸に手を当てて。
彼女にそっくりな彼女のように。
柔らかく、ほほ笑んだ。
「……ええ。とても」