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「あの……その、ごめん。パルマコスタに行きたいんだけど、いいかな」

一応まだ自由時間の期間内だから、と言葉を添えて、わたしはそう進言した。
もちろん、みんなに他の用事があるなら一人で行くつもりだ。ただの個人的な用事だし、誰かが一緒じゃないといけないわけじゃない。実際、みんなもまだ、最後の戦いの前にいっておきたい場所はあるみたいだし。優先すべきはそっちだ。
そう、おずおずと伝えれば、そもそも予定より先に合流してるのがおかしいんだよとか、どうせなら時間いっぱいしっかり身も心も休めようぜとか、主にゼロスくんが気をきかせてくれたおかげで、わたしはパルマコスタへと向かえることになった。
でも一人じゃ危ないだろと言って、ロイドとコレットと、リフィルさんとジーニアスの四人はついてきてくれるらしい。ついでにイセリアに顔を出しておいで、なんて言われながら五人でシルヴァラントへと向かうことにした。

といっても、パルマコスタはまだ大樹の暴走の名残で、その周辺は瓦礫の山。とてもじゃないけど中までは入れないし、近くにレアバードを停めるいい場所もない。
少し離れたところで降りないとね、と話しながらレアバードを飛ばしていると、ふと、イズールドのあたりが騒がしいのがここからでもわかった。
なんだろう、とそちらに目をやると、目のいいコレットがあれって、とレアバードの向きを変えた。

「どうしたの?」
「あれ……きっと、クララさんがいる!」
「クララさんが?」

クララさんと言えば、パルマコスタのドア総督の奥さんで、怪物の姿にされたままどこかへ逃げ出してしまった人だ。一度ルインで見かけたけれど、その後はどうなってしまったのかわからなかった。そんな彼女がいるというのなら、イズールドに寄らない理由はない。
あの時はなかった、彼女をもとに戻すための治癒術は、今、手元にあるのだ。彼女をこれ以上傷つけないためにも、ドア総督のためにも……絶対に、元の姿に戻してあげなくては。

「よし、今度は逃がさないぞ!」
「待て!」

イズールドに到着すれば、船の並ぶ海辺にクララさんが追い詰められているところだった。きっと、化け物を退治するために集まったのだろう傭兵たちに武器を向けられて、彼女はただ、そこで立ち往生している。
わたしたちは慌てて彼らの間に割って入ると、少し待ってくださいと傭兵たちに向き直った。

「なんだ、お前たち! 邪魔をするならお前たちも……!」
「違うんだ! ……先生、頼むよ!」
「わかっていてよ」

わたしたちが傭兵たちを止めている間にリフィルさんがさっとクララさんに近付くと、素早くレイズデッドを唱える。
治癒術の優しい光がクララさんに降り注ぎ、その姿が少しの間見えなくなった。そうして、その光が収まった後。そこにいた大きな怪物は、もうどこにもいない。代わりに、美しい金髪の……キリアちゃんによく似た女性が、そこに呆然と立ち尽くしていた。

「クララさんね? 私の声が聞こえるかしら?」

リフィルさんに声をかけられて、やっと己の状態がわかったのだろう。
はっと弾かれたように己の体を見下ろして、何度も手を開閉して。そうして、自分の今の姿をしっかりと認識することのできたらしいクララさんは、わっと涙をこぼした。

「はい……、はい! ありがとうございます! やっと元の姿に戻れた……!」
「よかった! 本当によかった……!」

涙を流しながら喜ぶクララさんに、コレットも嬉しそうに涙を滲ませる。
後ろで傭兵たちが動揺しているけれど、とりあえず「もともと人間だったんだけど、ディザイアンに怪物にされていた」と説明しておいた。細かい過程をすっ飛ばしているけれどすべて事実だ。だから安心して武器を収めてほしいと言えば、彼らは戸惑いながらも武器をしまった。

「本当になんとお礼を言えば。怪物だった頃のことはうっすらとしか覚えていませんが、娘のことも、夫のことも、そしてパルマコスタのことも……あれは、すべて真実ですのね」
「ごめんなさい。私のせいなんです。私に力がなかったから……」
「そんなことありませんわ。神子さまは、私のような者すら救ってくださったじゃありませんか」
「クララさん……」

コレットに笑いかけるクララさんに、彼女はぐっと言葉を飲み込む。きっと泣いてしまいそうなのだろう。それを必死に抑え込んで、本当によかった、と笑うコレットは、やっぱりどこまでも立派な神子だった。

「私はこれからパルマコスタに戻ろうと思います。今更私に何ができるかわかりませんが、それでも総督の妻として、きっとできることがあるはずです」

クララさんはそう言うと、コレットに優しいまなざしを向ける。
さすがにすぐには戻れないし、失ってしまったものは多いし、明日のこともわからない状況だけれど。
それでも希望は忘れませんと、救われた光を忘れませんと、そう言い切る彼女は、まさしくパルマコスタの希望であったドア総督の妻にふさわしいと思った。

「神子さまたちもお元気で。旅のご無事をお祈りしております」

こんな素敵な人が、救われてよかった。
そうこっそりと胸をなでおろして、握手を交わすコレットとクララさんを見守った。