「このあたりは、ミトスとその仲間の資料が展示されてます」
訪れた資料館で、彼に提示されたエリアの資料をとりあえず片っ端から取り出して、彼の仲間のことについて調べていく。
勇者ミトスの名前はこれだけ広がっているけれど、彼の仲間たちについて具体的な名前もどこにも残っていない。数人の、と書かれているけれど何人いたのかも、性別もわからない。このうちの一人は、間違いなくマーテルさんだとは思うけれど……この仲間たちというのは、ハーフエルフである二人のことを支えてくれたのだと思うと、今はそんな場合じゃないとわかっていながらも、なんだか胸がいっぱいになって泣きそうになる。
でも、本当に今は、そうやってミトスくんのかつての旅路に思いを馳せている場合じゃない。この時代にあったはずの、コレットの病気を治す方法を探すのだ。
……あれ、でも、それって、探すのは仲間の資料のコーナーであってるのかな?
「ちょっと、これを見ておくれよ」
「なんだ?」
見るコーナー違うかも、とちょっと首を傾げていると、しいながみんなを呼び出した。
床に置かないと見れないほどの大きな本の中で、ほら、と彼女が指さしたところを見ると、そこには覚えのある症例が記載されている。
「ミトスの仲間に、体中が結晶化する病にかかった人がいるらしいよ」
「それって、コレットと同じじゃない?」
永続天使性無機結晶症、とは、書かれていないけれど。体中が結晶化する、というのは非常にコレットのそれと似ている。エクスフィアという石のようになってしまう、ということを結晶化するという言い方をするなら、おそらくこれで間違いないだろう。
本当にあった、と少しだけ安心したわたしたちの横で、ミトスが心配そうに眉をひそめた。
「コレットさん……病気だったの?」
「う、うん、ちょっとね。……それで、どうなったの?」
「……治療されたみたいです」
「それはアルテスタ殿の言う通り、治す方法があったということだな」
「……失われた技術でなければいいのだけれど」
「……それで、治療方法は!?」
焦る気持ちを抑えながら、じっくりとその本に書かれている文章を読む。
その小節自体はそんなに長いものじゃない。仲間がそんな病気になった、治療した、これが仲間を救ったのだ、それだけだ。
「……ユニコーンが乙女を救ったって書いてあるけど、これってユウマシ湖で手に入れた、ユニコーンの角のことかい?」
「それって、リフィルさまが新しい治癒の術法を覚えたっていう角か〜?」
「……だとしたら、あの治癒術ではコレットをどうにもできないことは、すでにわかっているわ」
「ユニコーン自身が……必要なんでしょうか……」
「そういえばあの時、確かユニコーンは、マーテルの病を治すために生かされていた……みたいなことを……」
「マーテルさんも、同じ病を……?」
この資料に、ミトスの仲間の誰がコレットと同じ病にかかったのかは記載されていない。名前も残っていないのだから当然だ。
けれど、かつてユウマシ湖でしいなとコレットがユニコーンから聞いたと言う言葉と照らし合わせると、マーテルさんがこの病気にかかったことになる。もちろん、治療はされたらしいけれど……女神マーテルの器になる神子と女神が同じ病気になると言うのは、なんだか変な偶然であったし、彼女も同じように苦しんだのかもしれないと思うと、非常に落ち着かない気分だった。
「クラトスの言ってた通りだ。ユニコーンの言葉を思い出せって……あいつ、そういってた」
「クラトスさんって……いったい何者なのかな」
「なんだかんだ、いつもいろんな情報をくれるよね…」
「何言ってんだよ。何者もへったくれも、結局は裏切り者だろ? 信用しちまって、あとで痛い目みたらどーすんのよ」
「可能性はゼロじゃない。嘘が本当か疑う前に、試してみるだけだ!」
「……そうさ! やるだけやってみるしかないよ!」
手に入った情報は、間違いなく可能性だ。彼が何者であるのか、何を目的としているのかはわからない。でも、自分たちにとって必要なものかもしれないのなら、試してみるしかない。
そう力強く宣言したロイドにわたしたちもうなずけば、ミトスがぽつりとつぶやいた。
「ロイド……って、強いんだね」
「そうか?」
「一度は裏切られた人を信じることができるなんて、すごいよ」
ミトスの感想は、その通り、としか言えない。
確かに、クラトスさんはわたしたちを裏切った。ううん、彼にしてみれば、最初からクルシスの天使としての役割を果たしていただけなんだけど……ずっと一緒に戦ってきたのに、救いの塔でわたしたちは戦った。殺されかけた。今だって、彼はクルシスに所属している。
そんな相手のことを、どうして信じられるの。そんな相手が差し出してきた情報を、どうして本当のことかもしれないと思えるの。
それは……そう思うのは、当然のことだ。ロイドも、わかっている。だからこそ、彼も少し困った顔で、そうだよな、とうなずいて。でもさ、と言葉を続けるのだ。
「あいつは……何か、特別な気がするんだ。あいつが俺を見る目に、敵意を感じねえから……」
確かに、彼の言う通り。クラトスさんは、ロイドに対して明確な敵意のようなものは、ぶつけたことがないかもしれない。
あれは、自分の方が強い、という余裕の表れだと思っていたけれど……ロイドは、それこそが彼がクラトスさんを敵だと思い込めない理由なのだと言う。
その甘さとも言えるような言葉を聞いて、ミトスはそっと目を伏せた。
「ボクは……ロイドが……うらやましい……」