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「……ロイドみたいに……なれればよかった……」

そう呟いたミトスの声は、とても弱々しいものだった。
彼のようになりたい、と言った言葉の真相はわからない。ただひたすらに眩しいロイドに憧れるのはわかる。わたしもそう思ったから。でも、なんとなく、それだけではないような気がした。
……ミトスは、誰か信じた人に、裏切られたことがあったのかな。裏切られてしまったことに今も傷付いているのかな。
でも、その傷に触れていいのかもわからずにいれば、ジーニアスが呆れた声で口を開いた。

「だめだめ。ロイドみたいになったら、ミトスが馬鹿になっちゃうよ」
「あのなー! お前なー!」

けらけらとロイドをからかうジーニアスの笑い声で、ふっと日常の空気が戻ってきた感覚がする。
少しだけしんみりとしていた空気が霧散して、明るい、いつものわたしたちの空気が戻ってきて。いつの間にか詰めていた息を、は、と小さく吐き出せば、ミトスも楽しそうに笑った。

「あはははは! うん……本当にうらやましいや」

そう、目を細めて笑うミトスが、なんだかとても寂しそうに見えたから。
わたしは、何か言わなくちゃいけないと思って。でも上手に言葉が思いつかなくて。ただ、何も考えず、ぽんと彼の背中を叩きながら、こみあげてきた言葉を音にするしかできなかった。

「……あれは、二人ともミトスがミトスだから好きって意味だよ。わたしも、ミトスがロイドみたいになるより、ミトスの方が好きだな」

うーん、まあ、そんなに言いたいことと外れていないからいいか。うん、実際、二人が言いたいのはそういうことだしね。でも今、寂しそうにしていた彼に寄り添える言葉ではなかったかも。でも、寄り添える言葉って、具体的にわからないし、二人なりに励まそうとしてくれたってことを言うしかできなかったから、これでいいのかな?
なんだか今さらぐるぐると考えてしまうと、ミトスがさっと頬を染める。あれ、今特にそんな赤くなる要素あったかな? ……あったかも!

「……ママも罪な女だねえ。年上の初恋泥棒みたいなことしてら」
「変なからかい方やめてよ、もう」

ゼロスくんにからかわれた通り、確かに今のセリフはちょっと、年下を口説く構図になってしまっていたかもしれない。こちらとしては小さい子に対する好きって意味だけど、まあ、言われる方はいつだってドキドキするよね、うん。
一回り近く年下の子に、そんな目を向けるつもりはないけど……そこもあわせて年上の初恋泥棒っぽいな。なんてことない顔をしているけれど、内心はものすごく焦っている。
なんとか話を元の軌道に戻したいな、と思っていると、わたしたちを微笑ましそうに見守っていたプレセアちゃんがここにはこれ以上の情報はなさそうですね、と目を伏せた。

「でも……カーラーン大戦のことは……これ以上、どう調べたら……」
「ボク、ミトスやカーラーン大戦の資料の大部分は、テセアラ王室が編纂して保管しているって聞いたことがある」
「あー、たしかに……カーラーン大戦時代、王室とミトスはいろいろ因縁があったみたいだからな」
「メルトキオね。教皇の息がかかっていて危険だわ」
「この際、ぜいたくは言えないよ」

これまでも教皇騎士団にはさんざん追い回されたし、敵の本拠地に行くのは危ないけれど……でも、そこに情報があるのなら、行くしかない。
わたしたちはメルトキオに向かうことを決めると、散らかしていた資料を片付けだした。

「そうだな。俺たちはメルトキオに向かうけど、ミトスは帰った方がいい。とりあえず、ミトスを送って……」
「ボクなら大丈夫。一人で帰れるから」

ロイドの申し出にミトスは首を振ると、それより時間がないんだから急がなくちゃ、と立ち上がる。
時間がないのは事実であるし、確かにここからならそんなに危ない道ではないけれど……でも、非戦闘員を一人で帰すのも、とためらっていると、ミトスは大丈夫、とロイドに向き直った。

「それに城に潜入するんだよね。そっちこそ……気を付けて」
「……ああ。わかった。よし、みんな行くぞ!」