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オリジンの姿が消え、声も聞こえなくなって。静かになった石碑の前、ダイヤモンドの指輪がしいなの手の上で輝くのを見て、わたしたちは知らず知らずのうちにこめていた力を抜いて、ほうっと息を吐いた。
契約、できたのだ。オリジンと。これで、エターナルソードを使うための資格をロイドは得ることができた。まだ、エルフの血を引くものしか使えないという制限はあるけれど……それについては、クラトスさんがゼロスくんに手に入れさせたアイオニトスとやらを使って、これからどうにかするだろう。
一番の課題であるオリジンとの契約を、クラトスさんを死なせることなく達成することができた。それだけでもう、十分喜んでいいはずだ。

「やったね、ロイド……う、うわあ!」

だから、喜びのままにロイドのもとへ駆け寄るジーニアスを、誰も止めなかった。
彼が悲鳴をあげた瞬間、ジーニアスの懐から光が零れ、ロイドに向かって飛んでいくのを、みんながただ見ていることしかできなかった。
その光は、まるでロイドにとりつくように、彼の首元へと飛び込んで根を張る。うっすらと。その背後にミトスくんの影が見えた気がして……あれは、彼の輝石だと、そう気付いた。

───時間がない……お前の体を借りる!
「や……やめ……ろぉー!」
「いけない! ミトスよ! クルシスの輝石に宿って生きていたんだわ。このままでは、ロイドの体が乗っ取られてしまう!」
「だめ!」

かつてアリシアさんがそうだったように、輝石にやどって精神だけが生きていた彼が今、ロイドの体に奇跡を宿して、彼を乗っ取ろうとしている。
それを理解してすぐ、わたしはロイドに向かって駆け出して、その首元に根を張る輝石をぐっと掴んだ。
こんな取り外し方、よくないよ。
一瞬そう思ったけれど、それどころじゃないでしょと押し込んで、ロイドから引きはがすように輝石を引き抜く。そして、今なおロイドに向かって光を伸ばそうとする輝石をなだめるように、自分の胸元へと押し込んだ。

こんな無茶なことしたらどうなるか、もう少し冷静だったら思いついたのかもしれない。
でも、今は何も考えられなかった。ただ、ロイドを助けたくて、これ以上ミトスくんに誰かを傷付けてほしくなくて、がむしゃらだった。
胸元に押し込んだのは、そこに、今もまだ持っていたからだ。渡せなかったペンダントを、不安な時に掴んでいたように。大丈夫だよって、言い聞かせたくて、そこに押し込んだ。
結果、輝石から溢れた光はやがてわたしの体へと根を張って……ぐらりと、視界が歪んだ。

「……ナギサ。いいよ、別に。キミの体だって」

次の瞬間、わたしの声が聞こえて、え、と目を見開く。
目の前にあるのはわたしの背中だ。わたしがわたしから追い出されて、勝手にわたしの口を使って喋るそれを見ている。
……ミトスくんに体を奪われたのだ。そう気付いた頃、コレットに支えられているロイドが苦しそうに叫んだ。

「ナギサ!? まて! ナギサを返せ!」
「あははは! 知るもんか! ボクはこの汚らわしい世界から出ていくんだ!」

ちかりと目の前が白く染まって、次の瞬間には景色が切り替わる。
どうやら今、わたしたちは空の上にいるらしい。地面は遠く離れて、すぐそばに見えるのは救いの塔だ。わたしは魔法なんて使えないのに、いったいどうやって、なんて、考えている暇もない。
わたしの体を操るミトスくんが手をかざすと、地響きのような音と共に、救いの塔が崩れ始めたのだ。外壁がはがれて、その破片が隕石のように降り注ぐのが見えて。こんなのただの災害だ、と顔を青くしたところで、彼は小さく呟いた。

「これで、デリス・カーラーンへの進路は塞いだ」

普通の方法じゃ移動することなんてできないよ、と虚空に語り掛ける彼の目は、何を映しているのかわからない。
ミトスくん、と。思わず零れた声も聞こえているのか、いないのか。
彼はただ、隕石のように降り注ぐ救いの塔だった破片を眺めながら、ぎゅうっと自分を抱きしめるように丸まった。

「かえるんだ。かえりたい。かえるんだから……」

何度もつぶやく彼に向って手を伸ばす。名前を呼ぶ。
わたしの声は、手は……彼に触れることも届くこともないまま、ただ茫然と、その景色を見ることしかできなかった。