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「ナギサ!」

突然、聞こえてきた声にそろって声の方向へ視線を向ける。
この、長い階段に続く道。そこをかけてくる人影たちを見間違えるわけがない。

「ロイド、みんな!」

思わずそう叫んだけれど、果たしてこの声は聞こえているのだろうか。わたしの体に入ったままのミトスくんを取り囲んで身構える彼らの表情は険しいままだ。
それでも、すぐに武器を構えることはしないのは、わたしの体であることを気にしているからだろう。
それに、どうしよう、と思った。体は返してほしい。でも、どうにもわたしの体はミトスくんの輝石と相性が悪いようで、彼はずっと苦しそうにしている。そんな状態で戦うことになっては困るし……と慌てて彼に振り返ったけれど、わたしの体を使うミトスくんは、先ほどまでの言い争いで息を乱していたことも、苦しそうにしていたことも何も悟らせないような無表情でみんなを見ていた。

「ナギサを返せ!」
「……ボクに指図するな! 人間のくせに! ……クラトスの……血をひくくせに!」

けれど、ロイドにそう言われて、ミトスくんが叫んだ瞬間、呆然とした様子でロイドが立ち尽くすのが見えた。
同時に、見たことのないはずの景色が、わたしの目の前に流れ込んでくる。

知らない場所。けれど、知っている人たちの姿。
怒りに満ちた形相のクラトスさんにユアンに、傷だらけのマーテルさんを抱きかかえるミトスくんの姿。
マーテルさんは動かない。他に誰もいない。ただ四人だったはずの人達がそこにいて、その怒りの視線が自分に向けられているように感じる。

「……よくも……姉さまを……!」
「……人間! 貴様たちを生かしてはおかない!」
「……外道が。それほどまでにマナを独占したいか」
「もう許さない……! 人間なんて……汚い!」

ああ、そうか。
これは、彼の。

「ロイド、ここはミトスくんの記憶の中だよ、惑わされないで!」

思わずそう叫べば、はっとロイドの瞳がまたたくと同時に、その景色が霧散していく。
そして、がくんと視界が揺らいだ。一瞬倒れそうになって慌てて踏ん張ったところで、今、自分が自分の体を使っていることに気付いた。

「……どうして邪魔をする! お前とボクと、何が違うんだ!」

ミトスくんの声がする。わたしの口を勝手に動かしているのではない。すぐ隣だ。
その感覚の通りに隣へと体ごと向きなおれば、そこにはオリジンの石碑の前で見た、ぼんやりと透けて見えるミトスくんの姿が浮かんでいた。
彼の姿は、きっと他のみんなにも見えている。みんなの視線を受けながら、ミトスくんはくしゃりと表情を歪めた。

「ボクだって世界も姉さまも助けたかった! 誰にも迫害されない世界がほしかった……!」

そうして、涙は、流さないで。
ただ寂しそうに、わたしを見た。

「……ナギサと……一緒にいたかった……」