95-1

いつもの通り、メルトキオの市街に入るために地下水路を歩いていると、不意にコレットが足を止めた。
誰かいる、という彼女の言葉に従って耳をすませば、確かに出口付近で誰かが密談をしているらしい。こっそりと近寄れば、二人の男が、何かを渡しているのが暗がりでも見えた。

「これが代金だ」
「たしかに。へへへ……」
「あとどれくらいで国王はくたばる?」
「この毒なら、あと一か月ってところじゃねえか」
「気の長い話だな」
「病死に見えるようにという注文だからな。ゆっくりだが確実に死ぬ毒だ。もう少し辛抱くださるように、教皇さまにお伝えしてくれ」

この会話は……わたしたち、いわゆる、闇取引的な現場を目撃している、ということだろうか。
王様に毒を盛っている、なんてとんでもないスキャンダルだ。相手が誰だかわからないけれど、ここを見逃すわけにはいかない。ゼロスくんも、なるほどねえ、と意味ありげに笑った。

「ははーん、なるほど。あの健康優良体の国王が病気だなんて、おかしいと思ったぜ」
「どうするの、ロイド」
「決まってる。ここで国王を助けておけば……」
「恩が売れるわね。行きましょう」
「……どうして素直に、人助けって言えないのかねえ」
「素直じゃない人たちだからねえ」

そう言って一気に彼らのところへ走り出した三人の後ろについていきながら、しいなと二人で苦笑する。
恩を売っておいた方がいいというのもわかるけれど、別にそんな利益がなくたって、目の前で困っていたら三人とも助けに行っちゃう人達なのに。本当に素直じゃない人たちである。

「何者だ!」
「神子さま登場〜」
「しまった、ゼロスか!」
「なんだ?」

現れたわたしたちを見て慌てる兵士の横で、彼と話をしていた男がこちらへと振り返った。その小太りなシルエットには見覚えがある。おそらく、兵士にお金をもらって、毒を渡していたであろうその人……ヴァーリだ。
彼を見てリーガルさんとプレセアちゃんが一気に表情をこわばらせる。彼らは、この状況のまずさをすぐに理解したのだろう。くそっと悪態をつくと、すぐに武器を構えた。

「きさまは、ヴァーリか!」
「……!」
「ちっ、国王暗殺の事実を知られては困るんだよ! ここでくたばりやがれ!」
「……黙れ」
「……あなたは……許しません!」

けれど兵士が動くより先に地面を蹴ったリーガルさんが兵士を一撃でのし、プレセアちゃんのいる方向に向かってヴァーリを蹴り飛ばす。
待ち構えていたプレセアちゃんが勢いよく斧を振り下ろせば、体を抉るように斬りつけられたヴァーリは、苦しそうに呻いて地面に倒れ伏した。

「冗談だろ……俺は……こんなところで死ぬのか……あのくされたアリシアのように……朽ちていくのか……」
「アリシアを……侮辱しないで!」

今度こそ息絶えたのだろう。そのまま動かなくなったヴァーリを見て、兵士から毒の入った袋を回収したみんなが、彼の遺体の周りに集まってくる。

「こいつが五聖刃ロディルと教皇をつないでいたんだな」
「教皇には……くちなわも通じてる」
「テセアラのエクスフィアはヴァーリからロディルに流れ、クルシスの輝石に関する実験も、ロディルからヴァーリを通じて、教皇へ流れていたのね」
「ずいぶんと手広くやってたんだね」

そのわりにはずいぶんとあっけない最期だったけれど……これくらいの方が、いいのかもしれない。彼が何者かになろうとしたのなら、最後の最期でその願いは叶わなかったということになるのだから。
それよりも、わたしたちが考えなければいけないのは、このことを国王に伝えることと、教皇を追い詰めることだ。もう、彼のことは、誰も見向きもしない。ちょっとかわいそうにも思えるけれど……彼の行動で、多くの人の命が弄ばれたのだと思えば、ひどい言い方だけど、これは当然のことのようにも思えた。

「大方教皇の奴、協力する見返りに……国王の暗殺を持ち掛けたにちがいないな」
「不埒な……!」
「よし、教皇の奴を追い詰めようぜ」