「誰一人何もできやしないのさ」
「それは……どうかな!」
不敵に笑いながら詠唱を始めるミトスくんに向かって、みんなが武器を構えて駆け出す。当然、わたしもだ。
彼にもらった帯を、彼と戦うために広げる。とはいっても、前線で戦える全員が突撃したら、かえって邪魔だ。一番先頭に出るのはロイドに任せて、少し離れた場所から、彼の行動の邪魔をすることに専念するために位置を取る。
そして、ロイドの剣が彼に届くと同時に、光の剣が降り注いだ。
「獣破轟衝斬!」
「プリズムソード!」
降り注ぐ光の剣は、以前わたしを縫い付けたものだ。一度見ているのなら、避けることはできる。それらをかいくぐって、リーガルさんとプレセアちゃんがそれぞれの武器を振りかぶった。
「我らは多くの罪を犯した。それでも我らは、進まねばならぬ! 爪竜連牙弾!」
「あなたは哀れです。あれだけ多くのハーフエルフを従えていても、あなたが心から許せる人はもういない。……双月爆連舞!」
重たい攻撃が彼を襲う。けれど、さすがはかつて勇者と呼ばれ、すべての精霊たちと一人で戦っただけあるのだろう。
彼は瞬間移動でもしたのかと思うほどの素早さで二人の攻撃を逃れると、後ろから衝撃破で二人を吹き飛ばす。すぐにリフィルさんが治癒術を唱え始めるのも、当然意識している。彼がそのままの素早さで彼女の方へ移動するのを見て、わたしもそちらへと駆け出した。
「万物に宿りし……」
「吹き飛べ! イノセント・ゼロ!」
「させないよ!」
二人の間に割って入って、ダメージを肩代わりする。それでも余波で詠唱は中断してしまったようだけれど問題ない。追撃を受けそうになるリフィルさんを抱き寄せて、返す手で帯を打つ。
これだけじゃ大したダメージにはならない。でも、気をそらすには十分だ。
「おっと、回復役は一人じゃないんでね! ヒールウィンド!」
後ろに控えていたゼロスくんの治癒術を受けて、再びみんなが攻撃に移る。
回復と言えばリフィルさんだけど、別に回復が使えるのは彼女だけではない。それぞれの攻撃を受けながら、ミトスくんがぎろりとゼロスくんを睨んだ。
「裏切り者が、よくもまあそんな堂々としていられるね!」
「ま、こんな俺さまたちでも、生きている価値ってのが与えられちまったからな!」
「もう、あたしたちは逃げないよ。自分からも、過去からも、未来からも! 風刃縛符!」
しいなの攻撃に合わせて、ゼロスくんが剣を突き付ける。リーガルさんとプレセアちゃんの追撃も重たく、ずっと攻撃を続けているロイドの技だって厄介だ。
そのうえで、リフィルさんが次に唱えるのは補助術であることに気付いて、さすがにこのままではまずいと思ったのだろう。ミトスくんは再び短い距離をワープするように移動すると、素早く詠唱を始めた。
「甘いね。消えろ、ホーリーランス!」
「レデュース・ダメージ!」
「無数の流星よ、かの地より来たれ……」
全員を蹴散らすように降り注ぐ光の槍に、わたしもぐらりと目の前が歪む。その視界の中で、コレットの防御術の後ろでジーニアスが詠唱を続けているのが聞こえてきた。
わたしがリフィルさんについていたように、彼女もジーニアスを庇う位置についていたのだろう。それを見て、当然ミトスくんは魔術を邪魔しようとそちらへと視線を向ける。
ためらいのようなものは、きっとあった。そうじゃなかったら、わたしがそちらへ移動するまでの時間なんて、なかったはずだ。
ミトスくんの前に躍り出て、帯を強く握る。この長い旅の中で、これのいろんな使い方を覚えた。彼にもらった大事な大事な帯。それに意識を集中させて、エクスフィアがくれる力を帯に乗せるように意識する。
わたしは魔法なんて使えないけれど、属性の力を帯びた技の使い方なら、ちゃんと覚えたのだ。
「翔破爆雷陣!」
「くそっ……お前たちには、ボクの気持ちなんてわからない! ジャッジメント!」
雷を纏いながら振り下ろした攻撃に、ミトスくんはぎりりと歯を食いしばりながら応戦する。
貫く光は痛い。けれど、戦うことをやめるわけにいかない。
何より。気持ちがわからないのは、そっちだって同じだ。
「ミトスの……分からず屋! メテオスォーム!」
ジーニアスの声を聞いて、彼は避けられない。
直撃した隕石のような魔力の塊に、大きく体がぐらつく。
それでもまだ、戦意は喪失していないのだろう。何かの詠唱を始めて、足元に光が集まるのを見て、ロイドが強く前に踏み出した。
「とどめだ! 天翔蒼破斬!」
「格が違うんだよ! インディグネイト・ジャッジメント!」
ミトスくんの術を引き裂くように、ロイドの剣が彼へと振り下ろされる。
そのぶつかり合う衝撃に、わたしたちの方が耐えきれずに吹き飛ばされた。