たぶん、その力のぶつかり合いの余波で、少しだけ、意識が飛んでいたと思う。
次に目を開いた時には、ミトスくんも含む全員が倒れ伏していた。
ここに訪れた時点で、この場所はずいぶんと崩落しているように見えたけれど、この戦闘によってさらに負荷がかかったのだろう。がらりと瓦礫が床に落ちる音がする。みんなが呻く向こうで、人影が立ち上がるのが見える。
……ミトスくんだ。
ミトスくんがゆらりと立ち上がって、腕を振るう。同時に外衣が肩から滑り落ちたのが見えたと同時に、再び衝撃が訪れて、思わず悲鳴が漏れた。
「消えろ……!」
「うわああっ!」
慌てて地面に剣を突き刺して耐えたロイド以外が、空間の端まで吹き飛ばされる。
その際に慌てて近くにいたジーニアスとコレットを庇うように抱き込んだけれど、二人をまるっと守れるほど体格はよくないし、衝撃も相殺できなかったのだろう。思い切り打ち付けた背中は痛いし、ジーニアスとコレットも同じようにせき込んでいる。
他のみんなも同じだ。あちこちからあがる呻き声を聞きながらなんとか目を開けると、立ち上がったミトスくんの手に光が集まって、エターナルソードとは別の形の剣が現れる。
それを握り直して構える彼に、唯一吹き飛ばされなかったロイドが立ち上がった。
「ミトス!」
甲高い音を立てて、二人の間で刃がぶつかる。
弾いて、ぶつけて、振り下ろして。何度も何度も剣を交えながら、ミトスくんが叫んだ。
「人間も……エルフも、ボクたちを……邪魔者扱いする……! 好きでこんな風に生まれたわけじゃないのに、生きているだけで罪だと言う!」
「違う! 悪いのはハーフエルフじゃない!」
応戦しながらロイドがそう言い返す。
「悪いのは、自分とは違うやつを認めることができない心だ! 心の弱さだ!」
「心の弱さは罪なの? 誰もが強いわけじゃない。誰もがうとまれることを耐えられるわけじゃないんだ!」
「違う、悪い奴なんていない! 弱いことも、生まれたことも、何も悪くない! 悪いのは、全部諦めて目をつぶって、もうだめだって諦めて、変わることを、自分から動くことを諦めることだ!」
「えらそうに! 裏切り者に、弱い者に、呪われた血を背負って生きる者に、お前の後ろにいる奴らに! いったいどんな価値があるのさ!」
「みんな生きているだけで、そこにいるってだけで、価値があるんだ! どうしても言葉で言わないといけないなら、今決めてやる。ここにいるみんな、俺の大事な仲間だ! それが価値だ!」
「それはまた、ずいぶんと傲慢だね。じゃあ、お前の手から取りこぼされた者は、お前と敵対しているボクは、いったいどんな価値をくれるさ!」
「お前だって価値はある! 当たり前だろ! お前はジーニアスの友達で、ナギサの大事な奴なんだ!」
言い合う間も剣は止まらない。
剣をぶつけるごとに交わされる言葉の応酬に、誰もが聞き入っていた。
遠くから見て、ああ、ミトスくんの太刀筋って、本当にクラトスさんとそっくりなんだな、とか。そんなことを思ってしまえるくらいに呼吸が整っても、誰もその戦いに横やりを入れようとはしない。
……できなかった。
「お前に何がわかるんだ……っ! 時には逃げることが救いになることだってある。人間は……お前は、傲慢だね!」
「何もかもを許さなくちゃいけないわけじゃない。でも、後ろばかりみていたらダメだ!」
「そうしてお前たちは過去を忘れていく! どれだけの命が犠牲になったのかも忘れて、そのために苦しんだものの悲しみも失われる。罪には、罰と裁きが必要なんだよ」
ミトスくんが吐き出す言葉を聞いて、コレットが悲しそうに目を伏せる。
彼の問いは、言葉は。誰もが考えることだ。誰もが悩むことだ。悩んで、苦しんで、すぐに答えなんて出なくて。何度も考えたことだ。
ロイドのように、強く立っていることは誰にでもできるわけじゃない。
強くなんてなれない。自分の価値なんてわからない。間違えたら逃げたくなる。
だから、彼の言葉は、嘆きは、わかるのだ。理解できてしまうのだ。だからもう、わたしたちはこうして見届けることしかできないでいる。
それでも。……それでも。
強くなりたいって思った。自分の価値を見つけたいって思った。間違いから逃げた後でも、もう一度立ち上がりたいって思った。
変わりたいと思ってすぐに変われるわけじゃない。気持ちだけを持っていても、結果がなければ焦ってしまう。
でも、できる。一人じゃないから。見守ってくれる人が、そばにいてくれる人たちがいるから、立ち上がれる。やり直せる。自分のこと、好きになれる。
一人じゃなければ、できるんだ。
「ミトスはもう……一人じゃないのに……」
わたしに寄りかかったままだったジーニアスが、そう呟きながら体を起こす。
まだ、立ち上がることはできないけれど。うなだれて、肩を震わせて、ぎゅうと目を閉じて。彼は、泣きそうな声で叫んだ。
「ミトスの居場所は、ここに、あるじゃないか……!」
ぽたぽたと、彼の目から涙が零れる。
わたしはその手を思わず握り締めて、抱き寄せて。
ロイドの剣を弾いたミトスくんを見た。
「……ミトスくん!」
彼の目が、こちらを見る。
ようやく合ったその目が、一瞬だけ柔らかく細められたように見えた気がした。
「…………っ!」
その体を、ロイドの剣が貫く。
美しい光の羽が、辺りに散っていくのを見た。