だらりと、ミトスくんの腕から力が抜ける。
同時に、彼の体が再び光に溶けていくのを、わたしとジーニアスはお互いの手を強く握りあいながら見ていた。
目を、逸らすわけにはいかない。最後まで、ちゃんと彼を見届けなければならない。それが、彼の居場所になりたかったわたしたちができる、最後のことだ。
でも。だけど。
「……ジーニアスも、わたしも……ここに、いるのに……君と一緒にいたいって……言ってるのに……」
寂しいって、思ってしまうのは、許してほしい。
わかっているよ。君はわたしたちを選ばない。君はそう決めたから。
わかっているよ。わかっている。だから戦った。だから、ロイドの剣は、彼を貫いた。
これは、戦うって決めた時からわかっていたことだ。覚悟していたことだけど。それでも、視界がぼやけてしまうのは、許してほしい。
体が完全に光に溶けて、輝石だけが浮かび上がる。
そして、その後ろにぼんやりと現れたミトスくんの姿に、コレットがはっと息をのんだ。
「ミトスが!」
「アリシアと同じです! クルシスの輝石がある限り、ミトスは生き続けます」
───そして……いずれは輝石に支配される
静かに。こうなることはわかっていたとばかりに語りかけてくる声に、ロイドが悲しそうに眉を下げる。
もうお互いに戦意はない。たとえ再び体を手にしても、もう戦わない。それがわかって、みんなは武器をしまいながら彼らへと近付く。
「ミトス……」
───もうお前たちの正義ごっこに付き合うのはごめんだ。さっさと輝石を……壊せ。でないとデリス・カーラーンは離れていく
「ミトス……お前……」
───……早くしろ! ボクも……ボクではなくなる
「ロイド」
ぐ、と。わたしはロイドの手を引く。
振り向いた彼に、わたしは静かに首を横に振った。
きっと、彼は気付いただろう。そして彼は、言うだろう。
クルシスの指導者は倒したと。英雄のミトスは、わたしたちの友達であるミトスは、これからもわたしやジーニアスのいる場所で生きていいと、言うだろう。
だって、ずっと、聞かせてきたもんね。わたしとミトスくんとマーテルさんの話。そしてロイドは、やり直せることを知っている人だから。輝石を持っていることくらい、きっと気にしない。けじめはつけたのだと、生きていてくれと、そう言うだろう。
でも、だめ。だめなの。それは……それは、ミトスくんが望むことではない。
ミトスくんはこの四千年……ずっと、ずっと。マーテルさんと一緒にいたいという気持ちを優先して、他のすべてを切り捨ててきたのだ。そのためだけに頑張ってきた。それなのに、ここにきて違うものを選ぶことを……彼は、選ばない。
彼が価値を見出したのは大好きなお姉さんと一緒にいる世界だ。そのためだけに切り捨てたものを、積み重ねた罪を彼は忘れない。それらを手放してこれからも生き続ける強さを求めない。
ミトスくんの記憶を覗いてしまった時に、わかってしまったんだ。彼はちゃんと、自分の選んできた道の責任を取る人だって。
だから。
「お願い……ミトスくんの輝石を……砕いて……」
わたしは、その言葉を絞り出す。涙が零れ落ちそうになるのを必死に堪えて、願う。
いいのか、と目を見開くロイドを掴むわたしの手に、ジーニアスの手が添えられた。
「お願い、ロイド。ボクの友達だったミトスのままで……逝かせてあげて!」
ミトスがしてきたことを、わたしたちは許せない。
だから戦った。だから選ばなかった。
それでも、彼を好きなことは変わらないから。せめて、せめて……今。まだ、ミトスくんがミトスくんであるうちに。輝石を、壊してほしい。
……押し付けてごめんね。でも、自分で砕くのは、さすがにできない。
さすがにそこまでの勇気は、持ってないんだ。いつもごめんね。
ありがとう。泣かないから。涙、零したりはしないから。
ちゃんと見届けるから。だからどうか、お願い。
そう、伝えるわたしたちに、ロイドはぐっと目を閉じる。
次に開いた瞳は、決意に満ちた光を宿していた。
「……わかった」