144-3

───さよならだ、ボクの影。ボクが選ばなかった道の最果てに存在する者

彼の声が、響いている。
大好きな声だ。長い年月が過ぎ去っても、優しく耳に残る強く美しい声。
ロイドが、一歩ずつ彼に近付いていく。
ロイドの剣が鞘からゆっくりと抜き取られ、ぐっと強く握りこまれる。

───ボクはボクの世界が欲しかった。だからボクは後悔しない。ボクは何度でもこの選択をする

ロイドとミトスくんの距離が近付くほどに、心臓が早鐘のように鼓動を速める。
そうしてくれと自分で頼んだのに、この時間の果てにあるのは永劫の別れなのだと思うと、逃げ出したくてたまらなくなる。
でも、目をそらせない。ううん、そらしたくない。そらしてはいけないのだ。
そう言い聞かせて、わたしはぐっと胸元を握りしめる。いつまでもそこにある、渡せなかった贈り物。ずっとわたしを奮い立たせてきた彼との思い出を握りしめた。

最後まで、見届けなくては。だって、これが、彼の選んだことだから。四千年間、ずっと選び続けた選択の先。響く言葉の通り、決して後悔することのない歩みの果て。彼が歩いてきた道の最終地点。
わたしの手を取ることはしないって、そう言って。わたしがその隣に行くことを許さなかった彼が望んだ、新しい英雄の物語。

新しい英雄の門出は、かつて英雄であった独裁者を倒すことで始めなければならない。

ロイドならきっと、天使を倒し、勇者を許すという選択肢を選べるだろう。でも、彼はそれを望んでいない。彼だって英雄だった人だから。かつての時代に別れを告げ、新しい選択肢を選び取った者が始める物語の第一歩を、必要なことだと理解している。
これは、彼の選択の責任。世界が変わるために必要な儀式。
わかっている。わかっているよ。だから勝っても負けても、ミトスくんが望んだ展開になるんだって、わかっているよ。

───この選択を、し続ける!

響く言葉に嘘がないことはわかっているから。
だからわたしは、涙で滲む視界の中で必死に目を開いて、見つめている。
その視線の先で……ロイドの剣が、ミトスくんの輝石を砕いた。